ブックマーク / www.aozora.gr.jp (8)

  • 柳田国男 木綿以前の事

    女と俳諧(はいかい)、この二つは何の関係も無いもののように、今までは考えられておりました。しかし古くから日に伝わっている文学の中で、是(これ)ほど自由にまたさまざまの女性を、観察し描写し且つ同情したものは他にありません。女を問題とせぬ物語というものは昔も今も、捜して見出すほどしか無いといわれておりますが、それはみな一流の佳人(かじん)と才子、または少なくとも選抜せられた或る男女の仲らいを叙(の)べたものでありました。これに反して俳諧は、なんでもない只(ただ)の人、極度に平凡に活きている家刀自(いえとじ)、もっと進んでは乞(こじき)、盗人(ぬすっと)のまでを、俳諧であるが故に考えてみようとしているのであります。歴史には尼将軍(あましょうぐん)、淀(よど)の方(かた)という類の婦人が、稀々(まれまれ)には出て働いておりまして、国の幸福がこれによって左右せられたこともありますが、こういう人

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2021/10/28
    "木綿の罪責…この世の塵を多くしている。""勝手に忘れている主要なる歴史は、昔は酒屋の無かったことである。寝酒でも朝酒でも、ほしいときは何時でも得られるということが、昔は絶対に無かった" →ブクマ。
  • 服部之総 汽船が太平洋を横断するまで

    さてアメリカだ。この国に生じた最も重大な、二月革命よりもっと重大な事実は、カリフォルニヤ金鉱の発見である。発見後せいぜい十八ヶ月の今日、既にこれがアメリカの発見そのものよりも遙かに大規模な結果を齎(もた)らすだろうことを思わせる。 悲喜劇にはじまった飛行機の太平洋横断は、実現までにどれほど騒々しいジャズの幾場面をもったものかしれないが、これにくらべると汽船のそれは、記録も怪しいくらい忘失された出来事のように見えて、じつははるかに大掛りなメロドラマだった。 汽船にだって賞金付で騒がれた歴史はある。一八二四年には、一定日数内に英印間を乗切った汽船にたいする八千ポンドの賞金がインドで発表された。そのため四百七十トン百二十馬力の汽船がデットフォードで造られ、翌二五年八月十六日にファルマウスを解纜(かいらん)、百十三日目にカルカッタに着いた。だが、賞金が出るくらいだから、大洋航路が汽船会社の算盤(そ

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2021/06/22
    "五〇年代の汽船をもってしては、よほどの補助金でもない限り、貨物を帆船と争うことはできなかった。ヘンリー航海王以来の帆船時代はまだ終るどころか…" →服部之総「汽船が太平洋を横断するまで」。初出1931
  • 高村光雲 幕末維新懐古談 彫刻修行のはなし

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2018/09/10
    "不動様の三尊を彫り上げるということは彫刻の稽古としては誠に当を得たもの …この三体の中うちには仏の種々相が含まれているから""如来が一番むずかしいものとなっている。" →高村光雲が語る
  • 坂口安吾 天皇陛下にさゝぐる言葉

    天皇陛下が旅行して歩くことは、人間誰しも旅行するもの、あたりまえのことであるが、現在のような旅行の仕方は、危険千万と言わざるを得ない。 「真相」という雑誌が、この旅行を諷刺して、天皇は箒(ほうき)である、という写真をのせたのが不敬罪だとか、告訴だとか、天皇自身がそれをするなら特別、オセッカイ、まことに敗戦の愚をさとらざるも甚しい侘しい話である。 私は「真相」のカタをもつもので、天皇陛下の旅行の仕方は、充分諷刺に値して、尚あまりあるものだと思っている。 戦争中、我々の東京は焼け野原となった。その工場を、住宅を、たてる資材も労力もないというときに、明治神宮が焼ける、一週間後にはもう、新しい神殿が造られたという、兵器をつくる工場も再建することができずに、呆れかえった話だ。 こういうバカらしさは、敗戦と共にキレイサッパリなくなるかと思っていると、忽ち、もう、この話である。 私のところへは地方新聞が

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2018/02/06
    "天皇という昔ながらの架空な威厳によって支持せられるということが、日本のために、最も悲しむべきことであるということを、天皇はさとることが出来ないのであろうか" →1948年/田中絹代の名前も出てくる。
  • 坂口安吾 特攻隊に捧ぐ

    数百万の血をささげたこの戦争に、我々の心を真に高めてくれるような当の美談が少いということは、なんとしても切ないことだ。それは一に軍部の指導方針が、その根に於(おい)て、たとえば「お母さん」と叫んで死ぬ兵隊に、是が非でも「天皇陛下万歳」と叫ばせようというような非人間的なものであるから、真に人間の魂に訴える美しい話が乏しいのは仕方がないことであろう。 けれども敗戦のあげくが、軍の積悪があばかれるのは当然として、戦争にからまる何事をも悪い方へ悪い方へと解釈するのは決して健全なことではない。 たとえば戦争中は勇躍護国の花と散った特攻隊員が、敗戦後は専(もっぱ)ら「死にたくない」特攻隊員で、近頃では殉国の特攻隊員など一向にはやらなくなってしまったが、こう一方的にかたよるのは、いつの世にも排すべきで、自己自らを愚弄(ぐろう)することにほかならない。もとより死にたくないのは人の能で、自殺ですら多く

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2018/02/01
    "平和なる時代に於て、かかる人の子の至高の苦悩と情熱が花咲きうるという希望は日本を世界を明るくする" →「褒めて おめおめ 生き延びる」メソッド。/『戦艦大和講義』https://goo.gl/r6RrpNの批判射程に入る(こなみ
  • 寺田寅彦 烏瓜の花と蛾

    今年は庭の烏瓜(からすうり)がずいぶん勢いよく繁殖した。中庭の四(よ)ツ目垣(めがき)の薔薇(ばら)にからみ、それから更に蔓(つる)を延ばして手近なさんごの樹を侵略し、いつの間にかとうとう樹冠の全部を占領した。それでも飽き足らずに今度は垣の反対側の楓樹(かえでのき)までも触手をのばしてわたりを付けた。そうしてその蔓の端は茂った楓の大小の枝の間から糸のように長く垂れさがって、もう少しでその下の紅蜀葵(こうしょっき)の頭に届きそうである。この驚くべき征服慾は直径わずかに二、三ミリメートルくらいの細い茎を通じてどこまでもと空中に流れ出すのである。 毎日夥(おびただ)しい花が咲いては落ちる。この花は昼間はみんな莟(つぼ)んでいる。それが小さな、可愛らしい、夏夜の妖精(フェアリー)の握(にぎ)り拳(こぶし)とでも云った恰好をしている。夕方太陽が没してもまだ空のあかりが強い間はこの拳は堅くしっかりと握

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2015/03/14
    "十分な知識と訓練を具備した八十人が 完全な統制の下に…消火に従事することが出来れば…水道は止まってしまっても破壊消防の方法によって確実に延焼を防ぎ止めることが出来" →"無理"って言ってるようなもんだろw
  • 末弘厳太郎 嘘の効用

    法律以外の世界において一般に不合理なりとみなされている事柄がひとたび法律世界の価値判断にあうや否やたちまちに合理化されるという事実はわれわれ法律学者のしばしば認識するところである。そうして私はそこに法律の特色があり、また国家の特色があると考えるがゆえに、それらの現象の蒐集および考察が、法律および国家の研究者たる私にとって、きわめて有益であり、また必要であることを考える。その意味において、私は数年このかた「法律における擬制」(legal fiction, Rechtsfiktion)の研究に特別の興味を感じている。そうして文は、実にその研究の中途においてたまたま生まれた一つの小副産物にすぎない。これはもと慶応義塾大学において講演した際の原稿に多少の筆を加えて出来上ったものであって、雑誌『改造』の大正一一年七月号に登載されたものである。 [#改ページ] 一 われわれは子供のときから、嘘をいっ

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2013/03/24
    "役人が自由を与えられることなしに、責任のみ形式的にこれを負担せしめられるとき…「事実」を隠蔽して、責任問題の根源を断とうとする" →自由も無しに責任のみを与えた場合に 官民問わず 見られる傾向。
  • 桐生悠々 関東防空大演習を嗤う

    防空演習は、曾て大阪に於ても、行われたことがあるけれども、一昨九日から行われつつある関東防空大演習は、その名の如く、東京付近一帯に亘る関東の空に於て行われ、これに参加した航空機の数も、非常に多く、実に大規模のものであった。そしてこの演習は、AKを通して、全国に放送されたから、東京市民は固よりのこと、国民は挙げて、若しもこれが実戦であったならば、その損害の甚大にして、しかもその惨状の言語に絶したことを、予想し、痛感したであろう。というよりも、こうした実戦が、将来決してあってはならないこと、またあらしめてはならないことを痛感したであろう。と同時に、私たちは、将来かかる実戦のあり得ないこと、従ってかかる架空的なる演習を行っても、実際には、さほど役立たないだろうことを想像するものである。 将来若し敵機を、帝都の空に迎えて、撃つようなことがあったならば、それこそ人心阻喪の結果、我は或は、敵に対して和

    haruhiwai18
    haruhiwai18 2011/10/02
    "帝都の上空に於て、敵機を迎え撃つが如き、作戦計画は、最初からこれを予定するならば滑稽""航空戦は…ツェペリンのロンドン空撃が示した如く、空撃したものの勝であり空撃されたものの敗" →1933年筆。
  • 1