現実をコンパクトに説明できるというのが理論の役割なのだから、リチャード・クーさんの「バランスシート不況」という考え方は、極めて有用と言えるだろう。それが良く分かるのが、このほど出された『バランスシート不況下の世界経済』である。バブル崩壊後の経済では、企業は債務返済に注力して投資をしないから、金融緩和は効かず、財政を使わなければならないとする立論は、今の欧米にとって、十分に示唆に富むものである。 ……… それが遺憾なく発揮されているのが、第5章の「ユーロ危機の真相と解決」である。本コラムも、ドイツ経済の復活は、構造改革ではなく、輸出に恵まれただけという指摘をしたことがあるが、第5章では、事の発端がドイツのITバブルの崩壊にあり、それに対応した金融緩和が南欧にバブルを作ったところから説き起こされていて、問題の所在がクリアに分かる。むろん、必要なのは、財政需要となる。 第2章の米国における量的緩