シュンペーターは「企業者」「銀行家」「資本家」「生産管理者」など、さまざまな経済主体を「機能と役割」として描いている。イノベーションの担い手である企業者は、循環的な軌道に乗った瞬間に企業者ではなくなり、生産管理者に変化するという。つまり、人格ではなく、抽象的な機能である。 理論経済学はこれらの経済主体を合理的に行動する要素として描く。つまり生産関数の中の記号だから、たとえば「限界生産力逓減の法則」から個別の事例でただ1つの回答が演繹的に導かれる。もっと簡単にいえば、経済主体は合理的に行動することが経済理論の前提となる。したがって数学モデルができる。 一方、20世紀後半に発達した経営学は、積極的に企業の事例を集め、多くのケーススタディを分析して帰納的に法則を得る。数学的なモデル化はむずかしい。 シュンペーターの『経済発展の理論』(※注1)、すなわち企業者によるイノベーションの理論は、どちらか