河野一紀(臨床心理士) 科学技術の進歩は、あらゆるものを可視化する。それは自然現象だけでなく人間をも見透かし、今では頭蓋に覆われた脳の状態や活動までが、まだまだ限定的にではあるが、イメージングによって把握されてしまう。そして、それらのデータをもとにして、人間の思考や行動のメカニズムを解明する試みが進められていく。脳での思考はコンピューターの計算と比較され、人間は与えられた情報から未来を予測し、行動をするようにプログラムされていると考えられるに至る。 戯画化が過ぎたかもしれないが、人間の精神や身体についての確実な知をもたらす領野として、脳科学への関心と期待はますます高まりつつある。脳科学は、生物学や生理学とともに、人間にとって最も近しい「他者」である身体を器官や機能によって分解し、それを再び統合させることで、そのメカニズムを論理的に明らかにしようとする。このような流れにあって、あらゆる精神疾