本書はそのイタリアの織物のように軽やかで、味わい深く、時には風を通すような美しい本だ。紙質、装丁など、どこを見ても丁寧に作られた一級品だ。文章は清々しくも温かい。上質のツイードそのものなのだ。 それもそのはず、内田洋子はイタリアの時空を縱橫に飛びまわり、掌編小説のようにエッセイ仕立てのノンフィクションを書く名手だ。 あくまでも著者が見たまま、聞いたままを文章に落としているだけだ。長文の写真キャプションのようでもある。しかし、その文章に音楽を感じるのは評者だけだろうか。 今回、内田洋子はイタリアの山村、モンテレッジォの物語を描いた。 イタリアの最も由緒ある文学賞のひとつ露天商賞の発祥地である。いまは32人しか住んでいないこの小さな村の人々は1800年代の初頭からイタリア各地に本を届けていたという。 ヴェネチアの古書店でそれを知った著者は、モンテレッジォ村に移り住み、子孫たちも忘れてしまった村
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