「別れのサンバ」「黒の舟唄」などのヒット曲で知られるシンガーソングライターでギタリストの長谷川きよしが、デビュー55周年を機に歩みを振り返った回想記。波乱に満ちた半生の向こうに時代が透けて見える。 20歳のデビュー曲「別れのサンバ」は1969年の発表。経済成長の一方で、環境汚染などの歪(ゆが)みも深刻化し、学生運動も激しかった時代だ。音楽界はフォークソングやグループ・サウンズが全盛。技巧的なボサノヴァ・ギター一本でオリジナル曲を歌う長谷川は異彩を放つ存在だった。 交流の範囲は広かった。浅川マキ、加藤登紀子、渡辺貞夫、フェビアン・レザ・パネ、後には椎名林檎や小西康陽ら、幅広い音楽性を持つアーティストたちはもちろんだが、野坂昭如、矢崎泰久、永六輔、立川談志、高橋竹山、花柳幻舟、中村とうよう、吉行和子、村松友視といった多彩な人物も登場する。長谷川が狭い芸能の世界に閉じこもることのない活動をしてき