『去年(こぞ)の雪』(江國香織 著)KADOKAWA 小説家には魔法を使うタイプの小説家と魔法を使わないタイプの小説家がおり、江國香織はまがうかたなき前者である。 さらに、使う魔法にもさまざまある。江國香織の魔法は文体憑依にある。ここでは文章を用いて読者の身体に憑依し、まるで書き手のように考えさせる、というようなことである。思考は言葉であり、また体験であるから、この種の小説家は読み手を読書中、また読後しばらくにおいて書き手そのものにする。読んだ文章を「まるで自分が書いたことみたいに」思考し、体験する。時間を置いて憑依状態から脱したとしても、そこには遠くへ旅して戻ってきたあとのような旅情が残る。 今作『去年の雪』でも遺憾なく発揮されたその魔術的な文体にくわえ、江國香織は登場人物がまるで読者のすぐ隣にいるかのようになまなましく描出する名人でもある。人物たちの気配はまるで「さっき道で会ったかもし
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