ナチスの驥尾(きび)に付しての大学改革というハイデガーのもくろみは、わずか1年ほどで頓挫します。ナチスが彼の理想とは似ても似つかぬ集団であることに、ようやく気づくことになったのです。 とは言えこの挫折によっても、彼の思想の核心が揺らぐことはありませんでした。では、終生、彼がこだわり続けたものとは何だったのか? 講談社現代新書『ハイデガーの哲学』を上梓した轟孝夫氏が、ハイデガー「ナチス加担」問題の本質に迫ります。(#3 /全3回) ナチズムとの隔たり ハイデガーの学長時代の活動は、学長就任演説「ドイツの大学の自己主張」に典型的に見られるように、基本的にはナチズムを自分の「フォルク」の思想に基づいて再定義するという形を取っている。つまり彼はナチスに加担していたとされる時期でも、けっして人種主義的なナチズムをそのまま受け入れていたわけではなく、あくまでも、自分の哲学に立脚して、自分がそうあるべき