父は随分酔っているようだった。 目の前にあるテレビ画面には、年末恒例となった紅白歌合戦の模様が映っている。 ぼんやり見ていると、アレンジされて合唱コンクールの課題曲になった曲が演奏され始めた。 その時、父が憤慨した様子でこう言った。 「こんなつまらない音楽が売れるなんて、正直とてつもなく悔しい」 曰く、ひどくつまらない曲で、この歌の作者は才能がない、とのことだった。 「これくらいなら俺でも作れる。この程度の実力で」 父は昔ピアノをやっていたらしいし、今も趣味で合唱団に入っているくらい音楽好きだ。 多少クラシック方面に偏ってはいるが、音楽CDも多く買っている。ビートルズやカーペンターズに親しんだだけあって歌謡曲嫌いというわけではなく、YMOやマッキーやスピッツなんかも好きなようだし、最近のものではパフュームの曲について作りが上手いと褒めていた。 その父が、テレビ画面の前でそんなことを言った。
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