<ドイツ語の本を日本語に翻訳する際、4分の1ほどカットしたいと著者に申し出たことがある。著者に理由を説明すると、「きっと日本人のほうが、頭がいいんですね」と笑った> 翻訳をしていて、いつも気になることがある。文芸作品は別だが、ドイツ語であれ英語であれ、繰り返しの多さだ。これでもかこれでもかというほど、同じことを繰り返す。 以前、『幸せの公式』(講談社)という作品を翻訳した。最新の脳科学の知見をベースに幸せとは何かについて論じた、とても興味深い作品だった。著者はドイツの有名週刊誌『シュピーゲル』の元記者で、文章はとてもうまい。 しかし、とにかく繰り返しが多く、くどいのだ。仕方なく私は、ドイツのエージェントを通じて4分の1ほどカットしたいと申し出た。文章がくどいと言うのも気が引けたので、「厚い本は日本では売りにくい」など、あれこれ理由を並べて説明した。 しかし、返事が来ない。ずいぶん経ってから