身代金を目的とした誘拐事件はいまも時折起きる。数多くの犯罪の中でも特別な関心が寄せられるものの1つだ。まして被害者の家族が有名人ならなおさら。 「占領軍の影を引いた」といわれた特異な芸風で、業界内では嫌われながらも人気絶頂だったコメディアンの長男がさらわれた今回の事件は、国民に大きな衝撃を与えた。1週間で無事解決したが、誘拐罪の厳罰化を求める声が強まり、それまでなかった身代金目的誘拐罪の創設につながる。それだけでなく、被害者側のコメディアンに対する批判、攻撃も巻き起こり、その後の芸風や人気を大きく変化させることになった。 いま振り返ると、事件は一面で戦後の終わりを暗示していたようにも感じられる。なお「トニー谷」とした新聞もあるが、本文は「トニー・谷」の表記で統一する。今回も差別語・不快語が登場する。 客を怒鳴りつけ歌手を罵倒した男、トニー・谷 どれだけの人がトニー・谷という芸人とその芸を覚