岩手への帰省は、シルバーウィークと重なり交通と宿泊の手配に難儀したが何とか目処がついた。 だが、出発の二日前になって母が慌てたように電話をしてきた。 Sさんからの手紙に、岩手で一緒に「あん」を観たいと書いてあったらしい。 そして、母は「Sさんと一緒に観るから、おめさんは誰かと観てきて頂戴」と言うのであった。 誰かと観てと今更言われても、東京ではもう殆どの劇場での上映が終わってしまった。 それに、岩手で観る「あん」に合わせてスケジュールを調整したのに… 「あん」を観ないのであれば、帰省を先延ばしにしたかった。もう少ししたら東北の紅葉も見頃になるのだ。 けれども中学時代の友人達と夜遊びをする約束をしていたし、やっと予約が取れた宿や新幹線をキャンセルするのも面倒だった。 それに、私と観るよりもSさんと観に行った方が良いに決まっている。 Sさんは母よりも若いとはいえ高齢で、長旅をする元気があるうち