治療において必須となる転移感情 治療場面における情緒的なかかわりのネガティブな側面について最初に述べた形になったが、改めてその治療促進的な要素について考えよう。精神分析的な用語を用いるならば、それは基本的には陽性の転移であろう。患者の感情が動かず、自らについての言及も少ないだけでなく、治療者にも積極的な関心を抱かない場合には、その治療にはあまり進展は望めないであろう。患者が治療者に対して人間的な興味を持ち、あるいは治療者との情緒的な関係を重要と感じるようになると、そこに新たな力動が生まれる。ここら辺の事情は、すでにフロイトが100年以上前に述べていることだ。 比喩を用いればわかりやすいかも知れない。職場でのさして興味のない仕事に追われるという場合を思い浮かべよう。その人の上司が変わり、その人のもとで仕事をすることになる。その上司は自分にとっての理想の人に思え、やがてその人と話すことで勇気や