初出:2020年4月17日刊行『ゲンロンβ48』 ゲンロンはこの四月で創業から一〇年を迎えた。今号はその記念号にあたる。だからなにか書いてくれと頼まれた。 けれど、いま明るいお祝いの言葉を書く気にはどうしてもなれない。理由はいうまでもなく、現在進行中のコロナ禍にある。ゲンロンカフェはもうひと月以上観客を入れることができていない。 それは経営的に打撃というだけではない。ゲンロンは――というよりぼくは、この一〇年、ずっと、情報の交換だけでは人間はダメになる、哲学や芸術を理解するためには情報の「外」との触れ合いが必要だと主張し続けてきた。 それを現実との触れ合いが大事だと要約すると、そこらへんのオヤジでもいいそうな素朴な話になる。じっさいぼくはそこらへんのオヤジでもあるが、ただぼくとしては、その主張を「誤配」とか「観光」とかいう言葉で武装し、AIとかビッグデータとかスマートシティとかばかりいって