著者: 五十嵐 大 ぼくの父は、強面で身体が大きく、とても真面目な人だった。塗装工として休みなく働き、家族をしっかり養ってくれた。 でも、あまり感情を表に出さずぶすっとしている父は、ちょっと怖い。幼いころのぼくは、父が少し苦手だった。 「大ちゃん、お父さん、倒れたの! これから緊急手術だって!」 そんな父が倒れてしまったと連絡が入ったのは、ぼくが編プロでライター修行をしていたころ。いまから7年前のことだ。 病状は、くも膜下出血。電話をくれた従姉妹は、これから手術が行われること、家族は急いで病院に集まるように言われたこと、手術が成功するかどうかはまだ分からないことなどをまくしたてていた。 でも、その声がどんどん遠ざかっていく。 嘘だろ……。ぼくの耳は、電話の向こうで起きている現実をなかなか受け入れようとしなかった。 「だから、いますぐ帰ってきて!」 耳元で従姉妹が狼狽しながら叫ぶ声を聞き、ぼ