今世紀初頭に活躍したロシア・アヴァンギャルドの詩人、ダニイル・ハルムス。その前衛的な作風は、当時の政府に弾圧され、獄死したといいます。その短い数奇な生涯に劣らず、彼の作品には、ナンセンスが溢れており、強烈な魅力を持っています。そんな彼の散文を集めた作品集が『ハルムスの小さな船』(井桁貞義訳 西岡千晶絵 長崎出版)です。 ごく短い作品が大部分なのですが、基本的に、ストーリーらしいストーリーはありません。言葉遊びに近いナンセンス詩や、不条理な展開がたまらないコントなどが収められています。 例えば『夢』と題された作品。薮の中を通り過ぎる警官の夢を見る男を描いた、ただそれだけの作品です。『フェージャ・ダヴィードヴィチ』は、妻に隠れてバターを口にほおばった男の物語。『衣装箱』は、衣装箱に潜り込んで生と死を考える男の奇妙な話です。 また『墜落する老婆たち』は、墜落する老婆たちを描いたシュールな作品。イ