取材で過酷な旅ばかりしている。千葉の県境が全て川なのか歩いて確かめたり、廃線になる路線を120kmほど歩いて記録したり、多摩川に架かる橋の本数を歩いて数えたり。なんだ、歩いてばかりじゃないか。そのような紀行文を書く時は、読者に「うわ、行きたくないな」と感じてもらえるよう心掛けている。 行ってみたいと感じる紀行文は良質だ。でも、そう感じるくらいだから読者が同じ経験をする可能性はそこそこある。一方、行ってみたくないと感じたものは行こうともしない。だから絶対に体験できない世界の記録として極上の価値がある。そこを目指して書いている。 イラク水滸伝を読む。乾燥したイメージのイラクに巨大な湿地帯があり、そこには権力に抗(あらが)う人々や迫害されたマイノリティが逃げ込んだ歴史があり、とにかく謎めいている。現代でもどこか浮世離れした場所。ワクワクする。行ってみたい。 辺境をただ訪問しただけの体当たり紀行文