大変な一年が終わろうとしている。本来なら、東京オリンピック・パラリンピック(オリパラ)が開かれるはずだったので、ここ一年ほどは、東京に関する書籍の出版が相次いだ。 ローカルが前線 まず目を引くのは、ガイドブック類である。『地球の歩き方 東京』は、海外旅行案内の定番に追加された初の国内版だ。これはオリパラを意識した企画であり、外国人ら来訪者の目線で東京の特徴がとらえられている。光が当てられるのは、江戸から続く日本橋や浅草などの町とその文化であって、近現代に一挙に開発されたエリアへの言及は少ない。グローバル化で世界の大都市がどんどん似通うなか、それらを股にかける来訪者にとっては、ローカルな町こそが、東京観光の最前線なのだ。 では、そうした町は、「ローカルさ」をどうやって、醸成・持続させてきたのだろうか。この問いに、五十嵐泰正『上野新論』は応えてくれる。 本書の舞台・上野も江戸以来の町だが、戦後