芝健介、『ホロコースト ナチスによるユダヤ人大量殺戮の全貌』、中公新書 ホロコーストについて基本的なことを知ることができるだけの文献はすでに日本語で刊行されているけれども、新書や選書といった版型の場合古くなると書店で見つけにくくなってしまうという事情もあるから、最新の研究成果を反映した入門書が新たに刊行されることには意義がある。本書では過去の通説、通念が現在ではどのように見直されているかについて明示的に言及があるので、ホロコーストについての通史的な紹介はかなり前に読んだきり…という方にも一読の価値はあるだろう。とりあえずこれ一冊読めば、ホロコースト否定論の「一点突破全面展開作戦」のからくりは直ちに見抜けるようになるだろう。「アウシュヴィッツ」が一種のシンボルとなったことはホロコーストが広く知られることに貢献した反面、どうしても絶滅収容所でのガス殺という限定されたイメージを形成してしまったき