「一身にして二生を経る」という言葉があるが、この人も自らそう実感したのではないだろうか。 フリードリヒ・A・フォン・ハイエク。1930年代から、社会主義やケインズ理論といった、政府による経済コントロールを是とする立場に闘いを挑んだ彼は、反共や保守反動の代名詞として、“進歩的知識人”から嘲笑され続ける。講演会で登壇すると、聴衆から生卵や腐ったトマトをぶつけられることもあったという。 ところが20世紀の後半になると、ハイエクの思想を現実が後追いし始める。1974年にノーベル経済学賞を受賞すると、彼の理論は異端から先端へ様変わりし、サッチャー英首相やレーガン米大統領らが実際の経済政策に応用、両国の経済が劇的に立ち直るや、一挙に名声が高まり、新自由主義、あるいは新保守主義のイデオローグとして注目を浴びる。1992年、92歳で世を去るが、その後、社会主義は完全に崩壊し、今やケインズ政策も時代遅れのレ