日本語とフランス語、それぞれの言語で覚える言葉の数だけ、アクセスできる感覚が増えていき、意思の疎通が容易になるというだけではなく、対話する相手から引き出せる知識も増えていく。 いま思えば自分の「領土」、つまり認識できる世界が拡張されていく悦楽を知ったからこそ、わたしは自発的に言葉を覚えようとしたのだと思う。新しく覚える言葉の一つ一つは、身体で体験したことを記憶にとどめるためのアンカーであり、未だ体験したことのない感覚へ至るための道標だった。 コンピュータのなかで描かれるゲーム世界にも固有の言語があることを知ったのは、小学校にあがってマイクロコンピュータマイコンのキーボードに触れるようになってからだった。それまではただゲームで遊ぶという行為を通して読むことしかできなかった対象を、自分で記述する可能性に気づかせてくれたのは、パソコン雑誌の巻末についていたプログラムのソースコードだった。BASI