世の新刊書評欄では取り上げられない、5年前・10年前の傑作、あるいはスルーされてしまった傑作から、徹夜必至の面白本を、熱くお勧めします。 ◆ ◆ ◆ 応仁の乱後、幕府は弱体化の一途を辿り、下剋上の世が到来していた。弱冠十一歳で元服して将軍職に就いた義藤(のちの義輝)は、しかし初陣にて手痛い敗戦を蒙る。自ら佩刀(はいとう)の大般若長光を揮(ふる)って戦場を駆けたものの、彼の軍は弱かったのだ。強くならなければならぬ。そう覚悟した義藤は自らの剣を高めるべく、厳しい修業に励む。 戦国武将が覇を競い合う軍記小説の臨場感と、道を極めんとするものが技芸を通じて己れの内面と向き合う剣豪小説の精神とが、固く手を結び合った完璧な娯楽時代小説。それが『剣豪将軍義輝』だ。 強さを求める義輝の態度は凜々しく、胸を打たれるが、それは敵を惹きつけもする。彼の将軍首を取ろうとするのが三好長慶ら、逆賊の臣どもである。一方で