私の近著のカバー絵を提供して下さったのは、木下晋画伯です。画伯の絵を初めて見たときの衝撃は、今も忘れません。 雑誌での連載が始まる前、 「今度の連載の挿絵に、これを使いたいんです」 そう言って編集者が差し出した画集の表紙は、驚くべきリアリズムで描かれた合掌の鉛筆画でした。後日実物も見ましたが、絵は巨大なもので、しかもその細部にわたる描写は瞠目すべき、圧倒的な迫力でした。 画集に掲載されている絵は、さらに衝撃的でした。どうみても80歳以上に見えるご母堂のヌード、容貌がすっかり変わってしまったハンセン病の治癒者(画伯は自身でモデルを依頼したのだそうです)、ホームレスの老人、などなど。 どれもこれも、文字通り眼が釘付けになるような強度と密度を備えた表現です。 私が何よりも印象深く思ったのは、モデルの皮膚への異様なこだわりでした。老いと病と疲労とを暴き出すような皮膚の精密な描きぶりは、画家の見るこ