児玉さんがカバンから取り出した2冊の本『生活の設計』と『牛を屠(ほふ)る』は、どちらも私の労働経験を題材にした作品である。ただし、前者は小説で、後者はノンフィクションという違いがある。 私は作家になる前、大宮にある屠畜場の作業員として働いていた。1990年7月16日から2001年2月10日までの10年半にわたり、主に牛の解体作業に携わった。 大宮食肉中央卸売市場・大宮市営と畜場(現さいたま市食肉中央卸売市場・さいたま市営と畜場)はJR大宮操車場の北端に位置し、北関東一円と東北地方さらには北海道から運び込まれる牛や豚を屠畜して、出来上がった枝肉を競りにかけて首都圏に流通させている。 牛に関していえば、品川区にある芝浦屠場が高級な肉牛ばかりを扱うのに対して、大宮屠場は乳牛としての役目を終えたホルスタインの牝牛を中心に、ランクがあまり高くない牛を引き受けていた。 私の在職中は、1日平均、牛が10