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ブックマーク / www.aozora.gr.jp (21)

  • 森鴎外 かのように

    朝小間使の雪が火鉢(ひばち)に火を入れに来た時、奥さんが不安らしい顔をして、「秀麿(ひでまろ)の部屋にはゆうべも又電気が附いていたね」と云った。 「おや。さようでございましたか。先(さ)っき瓦斯煖炉(ガスだんろ)に火を附けにまいりました時は、明りはお消しになって、お床の中で煙草(たばこ)を召し上がっていらっしゃいました。」 雪はこの返事をしながら、戸を開けて自分が這入(はい)った時、大きい葉巻の火が、暗い部屋の、しんとしている中で、ぼうっと明るくなっては、又微(かす)かになっていた事を思い出して、折々あることではあるが、今朝もはっと思って、「おや」と口に出そうであったのを呑(の)み込んだ、その瞬間の事を思い浮べていた。 「そうかい」と云って、奥さんは雪が火を活(い)けて、大きい枠(わく)火鉢の中の、真っ白い灰を綺麗(きれい)に、盛り上げたようにして置いて、起(た)って行くのを、やはり不安な

  • 杜子春 (芥川 竜之介)

    東大在学中に同人雑誌「新思潮」に発表した「鼻」を漱石が激賞し、文壇で活躍するようになる。王朝もの、近世初期のキリシタン文学、江戸時代の人物・事件、明治の文明開化期など、さまざまな時代の歴史的文献に題材をとり、スタイルや文体を使い分けたたくさんの短編小説を書いた。体力の衰えと「ぼんやりした不安」から自殺。その死は大正時代文学の終焉と重なっている。 「芥川龍之介」

    杜子春 (芥川 竜之介)
  • 織田作之助 大阪の可能性

    大阪は「だす」であり、京都は「どす」である。大阪から京都へ行く途中、山崎あたりへ来ると、急に気温が下って、ああ京都へはいったんだなと感ずるという意味の谷崎潤一郎氏の文章を、どこかで読んだことがあるが、大阪の「DAS」が京都の「DOS」と擦れ合っているのも山崎あたりであり、大阪の「DAS」という音は、山崎に近づくにつれて、次第に「A」の強さが薄れて行き、山崎あたりでは「A」と「O」との重なり合った音になって、やがて京都へ近づくにつれて、「O」の音が強くなり、「DOS」となるのである。山崎あたりに住んでいる人たちの言葉をきいていると、「そうだす」と言っているのか、「そうどす」と言っているのか、はっきり区別がつかない。 字で書けば、「だす」よりも「どす」の方が、音がどぎついように思われる。「どす黒い」とか「長どす道中」とか「どすんと尻ついた」とか、どぎつくて物騒で殺風景な聯想を伴うけれども、し

    jiangmin-alt
    jiangmin-alt 2016/12/06
    "大阪は「だす」であり、京都は「どす」である。大阪から京都へ行く途中、山崎あたりへ来ると、急に気温が下って、ああ京都へはいったんだなと感ずるという意味の谷崎潤一郎氏の文章"
  • 図書カード:チベット旅行記 - 青空文庫

    この作品には、今日からみれば、不適切と受け取られる可能性のある表現がみられます。その旨をここに記載した上で、そのままの形で作品を公開します。(青空文庫

    図書カード:チベット旅行記 - 青空文庫
  • 伊東忠太 妖怪研究

    一 ばけものの起源 妖怪(えうくわい)の研究(けんきう)と云(い)つても、別(べつ)に專門(せんもん)に調(しら)べた譯(わけ)でもなく、又(また)さういふ專門(せんもん)があるや否(いな)やをも知(し)らぬ。兎(と)に角(かく)私(わたし)はばけものといふものは非常(ひぜう)に面白(おもしろ)いものだと思(おも)つて居(ゐ)るので、之(これ)に關(くわん)するほんの漠然(ばくぜん)たる感想(かんさう)を、聊(いさゝ)か茲(こゝ)に述(の)ぶるに過(す)ぎない。 私(わたし)のばけものに關(くわん)する考(かんが)へは、世間(せけん)の所謂(いはゆる)化物(ばけもの)とは餘程(よほど)範圍(はんゐ)を異(こと)にしてゐる。先(ま)づばけものとはどういふものであるかといふに、元來(ぐわんらい)宗教的信念(しうけうてきしんねん)又(また)は迷信(めいしん)から作(つく)り出(だ)されたものであ

  • 作家別作品リスト:伊東 忠太

    公開中の作品 誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名、作品ID:46333) 建築の義 (旧字旧仮名、作品ID:46334) 国語尊重 (旧字旧仮名、作品ID:46335) 日建築の発達と地震 (旧字旧仮名、作品ID:46336) 妖怪研究 (旧字旧仮名、作品ID:46337) 作業中の作品 関連サイト

  • 桐生悠々 正義の国と人生

    ゴオリキの「どん底」に現われた不思議な老人ルカの話によると、シベリアに「非常に貧乏で、惨な暮らし」をしていた或男が、「正義の国」を求めていた。この正義の国には「特別な人間」が住んでいて、しかも「立派な人間ばかりで、互に尊敬し合い、どんな些細なことにも助け合う」国であった。そしてこの男は、絶えずこの正義の国を探しに行く用意をしていたが、さなきだに貧乏だった彼は、これがためにますます貧乏となり、結局「寝たまま死を待つより外のない、どん底な生活に陥ってしまった」。でも、彼は落胆しないで何処かに「正義の国」があることを信じて、そこへ行こうとしていた。 或時、このシベリアに一人の学者が流れ込んで来た。この男は早速この学者を探ねて「正義の国」は何処にあるか教えてくれ、そしてそこへ行く道を教えてくれとたのんだ。「学者は早速書物を開いた。地図を広げた……探しも探したが、正義の国はどこにもない。ほかの事は皆

  • 作家別作品リスト:黒島 伝治

    1898(明治31)年12月12日、香川県小豆島の貧しい農家に生まれる。1917(大正6)年、文学を志し上京、1919(大正8)年に早稲田大学予科に入学するが、徴兵を受け、シベリアに派兵。胸を患い、帰国。『文芸戦線』同人となり農民小説、反戦小説を執筆。代表作は、シベリア出兵を題材にした『渦巻ける烏の群』、済南事件に取材した『武装せる市街』など。1943(昭和18)年10月17日、郷里小豆島で病死。(大野 裕) 「黒島伝治」 公開中の作品 愛読したと作家から (新字新仮名、作品ID:45439) 穴 (新字新仮名、作品ID:42807) 田舎から東京を見る (新字新仮名、作品ID:45440) 渦巻ける烏の群 (新字新仮名、作品ID:884) 海賊と遍路 (新字新仮名、作品ID:1420) 外米と農民 (新字新仮名、作品ID:45442) 鍬と鎌の五月 (新字新仮名、作品ID:45443)

  • 宮沢賢治 ポランの広場

    時、一千九百二十年代、六月三十日夜、 処、イーハトヴ地方、 人物、キュステ 博物局十六等官 ファゼロ ファリーズ小学校生徒 山博士 牧者 葡萄園農夫 衣裳係 オーケストラ指揮者 弦楽手 鼓器楽手 給仕 其他 曠原紳士、村の娘 多勢、 ベル、 人数の歓声、Hacienda, the society Tango のレコード、オーケストラ演奏、甲虫の翅音、 幕あく。 舞台は、中央よりも少し右手に、赤楊の木二、電燈やモールで美しく飾られる。 その左に小さな演壇、 右手にオーケストラバンド、指揮者と楽手二名だけ見える。そのこっち側 右手前列に 白布をかけた卓子と椅子、給仕が立ち、山博士がコップをなめながら腰掛けて見てゐる。 曠原紳士、村の娘たち、牧者、葡萄園農夫等 円舞。 衣裳係は六七着の上着を右手にかけて、後向きに左手を徘徊して新らしい参加者を待つ。 背景はまっくろな夜の野原と空、空にはしら

  • 宮沢賢治 ポラーノの広場

    そのころわたくしは、モリーオ市の博物局に勤めて居りました。 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給(ほうきゅう)もほんのわずかでしたが、受持ちが標の採集や整理で生れ付き好きなことでしたから、わたくしは毎日ずいぶん愉快にはたらきました。殊にそのころ、モリーオ市では競馬場を植物園に拵(こしら)え直すというので、その景色のいいまわりにアカシヤを植え込んだ広い地面が、切符売場や信号所の建物のついたまま、わたくしどもの役所の方へまわって来たものですから、わたくしはすぐ宿直という名前で月賦で買った小さな蓄音器と二十枚ばかりのレコードをもって、その番小屋にひとり住むことになりました。わたくしはそこの馬を置く場所に板で小さなしきいをつけて一疋の山羊を飼いました。毎朝その乳をしぼってつめたいパンをひたしてたべ、それから黒い革のかばんへすこしの書類や雑誌を入れ、もきれいにみがき、並木

  • 夢野久作 父杉山茂丸を語る

    白ッポイ着物に青い博多織の帯を前下りに締めて紋付の羽織を着て、素足に駒下駄(こまげた)を穿(は)いた父の姿が何よりも先に眼に浮かぶ。その父は頭の毛をクシャクシャにして、黒い関羽鬚(かんうひげ)を渦巻かせていた。 筆者は幼少から病弱で、記憶力が強かったらしい。満二歳の時に見た博多駅の開通式の光景を故老に話し、その夜が満月であったと断言して、人を驚かした事がある位だから……。 だからそうした父の印象も筆者の二歳か三歳頃の印象と考えていいらしい。父が二十七八歳で筆者の生地福岡市住吉(すみよし)に住んでいた頃である。この事を母に話したら、その通りに間違いないが、帯の色が青かったかどうかは、お前ほどハッキリ記憶していない、お祖父(じい)様の帯が青かったからその思い違いではないかと云った。 その父が三匹の馬の絵を描(か)いた小さな傘を買って来てくれた。すると間もなく雨が降り出したので、その傘をさしてお

  • 奴隷根性論 (大杉 栄)

    文学者、思想家。「自立した個人の絶対的自由」を求める徹底した個人主義者及び社会主義者として知られる。関東大震災の際、憲兵隊にとらえられ、虐殺された。 「大杉栄」

    奴隷根性論 (大杉 栄)
  • 新美南吉 ごん狐

    これは、私(わたし)が小さいときに、村の茂平(もへい)というおじいさんからきいたお話です。 むかしは、私たちの村のちかくの、中山(なかやま)というところに小さなお城があって、中山さまというおとのさまが、おられたそうです。 その中山から、少しはなれた山の中に、「ごん狐(ぎつね)」という狐がいました。ごんは、一人(ひとり)ぼっちの小狐で、しだの一ぱいしげった森の中に穴をほって住んでいました。そして、夜でも昼でも、あたりの村へ出てきて、いたずらばかりしました。はたけへ入って芋をほりちらしたり、菜種(なたね)がらの、ほしてあるのへ火をつけたり、百姓家(ひゃくしょうや)の裏手につるしてあるとんがらしをむしりとって、いったり、いろんなことをしました。 或(ある)秋(あき)のことでした。二、三日雨がふりつづいたその間(あいだ)、ごんは、外へも出られなくて穴の中にしゃがんでいました。 雨があがると、ごんは

  • 作家別作品リスト:伊丹 万作

    公開中の作品 映画界手近の問題 (新字新仮名、作品ID:1191) 映画音楽 (新字新仮名、作品ID:43636) 映画と民族性 (新字新仮名、作品ID:43868) 映画と癩の問題 (新字新仮名、作品ID:1192) 映画の普及力とは (新字新仮名、作品ID:43869) 演技指導論草案 (新字新仮名、作品ID:1190) 思い 情報局の映画新体制案について(新字新仮名、作品ID:43870) 顔の美について (新字新仮名、作品ID:1195) カタカナニツイテ (新字新仮名、作品ID:43640) カメラに関する覚え書 (新字新仮名、作品ID:43641) 広告 (新字新仮名、作品ID:50251) 雑文的雑文 (新字新仮名、作品ID:43871) 政治に関する随想 (新字新仮名、作品ID:43872) 戦争責任者の問題 (新字新仮名、作品ID:43873) 戦争中止を望む (新字新

  • 宮本百合子 鬼畜の言葉

  • 無人島に生きる十六人 (須川 邦彦)

    この作品には、今日からみれば、不適切と受け取られる可能性のある表現がみられます。その旨をここに記載した上で、そのままの形で作品を公開します。(青空文庫

    無人島に生きる十六人 (須川 邦彦)
  • 伊丹万作 戦争責任者の問題

    最近、自由映画人連盟の人たちが映画界の戦争責任者を指摘し、その追放を主張しており、主唱者の中には私の名前もまじつているということを聞いた。それがいつどのような形で発表されたのか、くわしいことはまだ聞いていないが、それを見た人たちが私のところに来て、あれはほんとうに君の意見かときくようになつた。 そこでこの機会に、この問題に対する私のほんとうの意見を述べて立場を明らかにしておきたいと思うのであるが、実のところ、私にとつて、近ごろこの問題ほどわかりにくい問題はない。考えれば考えるほどわからなくなる。そこで、わからないというのはどうわからないのか、それを述べて意見のかわりにしたいと思う。 さて、多くの人が、今度の戦争でだまされていたという。みながみな口を揃えてだまされていたという。私の知つている範囲ではおれがだましたのだといつた人間はまだ一人もいない。ここらあたりから、もうぼつぼつわからなくなつ

  • 寺田寅彦 津浪と人間

    昭和八年三月三日の早朝に、東北日の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙(な)ぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。明治二十九年六月十五日の同地方に起ったいわゆる「三陸大津浪」とほぼ同様な自然現象が、約満三十七年後の今日再び繰返されたのである。 同じような現象は、歴史に残っているだけでも、過去において何遍となく繰返されている。歴史に記録されていないものがおそらくそれ以上に多数にあったであろうと思われる。現在の地震学上から判断される限り、同じ事は未来においても何度となく繰返されるであろうということである。 こんなに度々繰返される自然現象ならば、当該地方の住民は、とうの昔に何かしら相当な対策を考えてこれに備え、災害を未然に防ぐことが出来ていてもよさそうに思われる。これは、この際誰しもそう思うことであろうが、それが実際はなかなかそうならないというのがこの人

  • 蜜柑 (芥川 竜之介)

    東大在学中に同人雑誌「新思潮」に発表した「鼻」を漱石が激賞し、文壇で活躍するようになる。王朝もの、近世初期のキリシタン文学、江戸時代の人物・事件、明治の文明開化期など、さまざまな時代の歴史的文献に題材をとり、スタイルや文体を使い分けたたくさんの短編小説を書いた。体力の衰えと「ぼんやりした不安」から自殺。その死は大正時代文学の終焉と重なっている。 「芥川龍之介」

    蜜柑 (芥川 竜之介)
    jiangmin-alt
    jiangmin-alt 2010/09/02
    芥川龍之介
  • パソコン創世記 (富田 倫生)

    広島市生まれ。早稲田大学政治経済学政治学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、ライターに。ノンフィクションのさまざまな分野を取材対象としてきたが、次第にパーソナルコンピューターの比重が高まる。ボイジャーのエキスパンドブックを見て電子出版の可能性を気で信じ込むようになり、「パソコン創世記」と名付けたタイトルを、コンピューターで読むことを前提に制作。このブック上の記述を、インターネット上のさまざまなホームページにリンクさせていくという作業を体験してからは、電子への確信をさらに深めている。 紙で出してきた著書に、「パソコン創世記」(旺文社文庫版、TBSブリタニカ版)、「宇宙回廊 日の挑戦」(旺文社)、「電脳王 日電の行方」(ソフトバンク)、「青空のリスタート」(ソフトバンク)、「の未来」(アスキー)がある。

    パソコン創世記 (富田 倫生)