2015年12月採択されたにCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)のパリ協定。先進諸国は石油などの化石燃料の消費を2050年には現状から80%の削減が求められることになった。 だが、石油消費を減らす力学は実は環境制約にとどまらない。 IEA(国際エネルギー機構)が2016年11月に発表した「世界エネルギー展望(World Energy Outlook)2016」(WEO 2016)は、数年後には石油生産能力が減退し始め、これまで世界の経済発展を支えてきた安価な原油の供給は、2050年には現状から80%程度減少することを示唆している。こちらは原油の資源制約に由来する石油消費削減要求と言えるだろう。 2019年ころから石油生産能力は低下する 過去、IEAが石油供給の限界を明示したことはなかった。その意味で、WEO 2016が石油の供給力減退を警告したこと自体、歴史的な出来事と言ってい
先進国における近年の生産性の伸び具合は、深い失望をもたらしている。図が示す通り、生産性の伸びは20世紀末の水準をはるかに下回る。ドットコム・ブームの時期には米国及びカナダなどで上昇が見られたが、これも長くは続かなかった。労働人口が伸びないなか、生産性の上昇率が1%程度にとどまれば、GDP(国内総生産)成長は停滞することになる。 革新的技術が生まれていないのか? OECD(経済協力開発機構)が発表した新しい論文は、この不可解な生産性の低迷を解明しようと、いくつかの説明を紹介している。例えば、「進歩は終わった」という主張がある。今起きているIT(情報技術)の進歩は、電気や自動車の普及ほど革命的なものではない、とする説だ。 経済の中心が製造業からサービス業に移行したことが原因だという可能性も取り上げている。サービス業における労働生産性は、多くの場合、製造業より低いかもしれない(しかも、その仕事は
昆虫にとってコンビニとは何か? 昆虫にとって車とは何か? 昆虫にとってイナゴの佃煮とは何か? 昆虫にとってファーブルとは何か? 昆虫にとって戦争とは何か? 昆虫にとって人間の性欲とは何か? 昆虫にとって生まれてきた目的は何か?…などのいささか唐突な、けれどもチャーミングな28本の問いがズラリ並べられた1冊である。 たかが、ムシ談義と侮るなかれ。それぞれの昆虫への生真面目な問いかけは、同時に人間に対する問いかけでもある。つまり、人間は○○○を通して昆虫に何をしてきたのか、人間自身にとって○○○とは何か。ムシの存在を通じて、思いもよらぬ角度から人間社会を照射するのである。 一般に昆虫の保護に関しては、オオムラサキのような派手な蝶や、ゲンジボタルのような人間のノスタルジーを誘う一部のムシを除いて、環境運動家の関心も薄い。だが、「カメムシ採集人」という肩書き(本来の専門は害虫防除)の著者は、昆虫マ
「2016年に関しては、いくつかの音楽イベントを諦めざるを得ない状況です。様々なホールに確認しましたが、どこも一杯。なんでこんなに閉館が集中するんですかね…。規模の大小問わず、閉館が相次いでいます」。都内イベント企画会社の幹部は、こう言ってため息をついた。 首都圏のイベント会場が2016年に相次いで閉館・休館する。改修や建て替えのためだ。会場不足がピークとなることで音楽・演劇関係者は悲鳴を上げ、「劇場・ホール2016年問題」と呼ばれている。 主だった閉館・休館施設をまずは列挙してみよう(収容人数順。休館期間は予定を含む)。 さいたまスーパーアリーナ(3万7000人)=2016年2月~5月 横浜アリーナ(1万7000人)=2016年1月~6月 渋谷公会堂(2084人)=2015年10月~2018年度 日比谷公会堂(2074人)=2016年4月~2020年以降 五反田ゆうぽうと(1803人)=
清野 由美 ジャーナリスト 1960年生まれ。82年東京女子大学卒業後、草思社編集部勤務、英国留学を経て、トレンド情報誌創刊に参加。「世界を股にかけた地を這う取材」の経験を積み、91年にフリーランスに転じる。2017年、慶應義塾大学SDM研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。 この著者の記事を見る
冒頭の写真は、アレックス・カーさんが著書『ニッポン景観論』(集英社新書)の中で使った、日本の「景観テクノロジー」とヴェネツィアの町をモンタージュしたものです。 添えられたキャプションのブラックユーモアに、思わず笑ってしまいます。 ……しかし、笑った後に一抹の疑問にとらわれないでしょうか。 日本にはすばらしい歴史的遺産や文化が各地にあります。それらは21世紀の有望産業といわれる「観光業」を支える資源であり、世界に比肩する大いなる資産(レガシー)です。それなのに、現実ではこのモンタージュのような「景観工事」がいたるところで繰り広げられ、その価値を損なっています。 アレックスさんのユーモラスで辛辣な視点から浮き彫りになる、日本の景観が抱える問題点とは何か。それに対する有効な処方箋とはどういうものか。日本の都市とコミュニティについて、多くの取材を手がけてきた清野由美さんが聞き手になって、それらを探
新潟県の地方紙「新潟日報」上越支社の報道部長が、ツイッターに「闇のキャンディーズ」という名前で、新潟水俣病3次訴訟の原告側弁護団長の弁護士を中傷する書き込みをしていた事件が話題になっている。 はじめのうちは、よくあるネット上の炎上騒ぎの延長に見えた。それが、全国紙の記事になり、NHKをはじめとする地上波のテレビ局がニュース枠で伝える事態となって、現在では全国レベルのニュースに化けている。 「新潟日報」が自ら報じた続報によれば、新潟日報社は、同社の報道部長(53)がツイッター上で新潟市の弁護士を中傷する書き込みをしたとして、10月25日付けで同社上越支社報道部長の職を解き、経営管理本部付けとする人事を決めた。さらに過去の書き込みなどについても調べた上、一両日中にも社としての対応を決定し、公表する意向だという(こちら)。 事件の外形だけを見ると、これは、ある新聞社の社員が引き起こした暴言事件に
コミックやアニメでヒットした「2次元」の作品を、「3次元」の俳優たちが登場人物の口癖まで忠実に再現し、歌や踊り付きで舞台化した「2.5次元」ミュージカルの人気が高まっている。 2000年に上演された『HUNTER×HUNTER』を始まりとし、2003年に上演された「ミュージカル『テニスの王子様』」のヒットで人気が定着した。2010年に年間観客動員数40万人を突破した後、人気が急上昇。2.5次元ミュージカルの原型を作ったエンターテインメント企業、マーベラスやネルケプランニング(東京都目黒区)に続き、東宝やホリプロなど大手も相次ぎ運営側に新規参入。2014年には年間観客動員数が200万人を超えるほど市場規模が拡大した。観客はほぼ10~20代の女性である。 人気の高い「ミュージカル『テニスの王子様』」(テニミュ)や「ミュージカル『薄桜鬼』」(薄ミュ)、「舞台『弱虫ペダル』」(ペダステ)などはシリ
三井不動産レジデンシャルが2006年に販売した「パークシティLaLa横浜」が、杭工事の不良が原因とみられる傾斜で生じた問題(以下、傾斜マンション問題)は、単なる現場のミスとその隠蔽という構図で納得するにはあまりに不可解だ。そして、その不可解さのかなりの部分は、建築に縁のない人間には分かりづらい用語や、業界の“常識”ゆえに説明がされていないことによる、と思う。かくいう自分も建築に人並みの興味はあるがそれだけだ。 分からないことを専門家に聞き、勉強の課程を公開 開き直って言えば、「何が分からないか」を、普通の社会人の仮の代表として専門家に聞けるのが、自分の仕事の最大の意味だと思っている(間違うことに開き直っているわけではありませんので、そこはどうか誤解無きようお願いします)。そこで、今回の問題についての、自分の事前取材ノートを作るつもりで、専門家の方々にインタビューをさせていただいた。傾斜マン
パリで起こった同時多発テロ事件の衝撃は一瞬のうちの世界中を駆け巡った、というこの書き出しの一行の文体は、なんだか、夕方の民放の情報番組がBGM付きで配信している扇情的なニュース原稿のコピペみたいだ。 実際に、あの事件以来、国際社会の空気は切羽詰まった調子のものに変貌している。 私は、911のテロ事件を受けた半月ほどの間に、アメリカ発のニュース映像の基調がいきなりハリウッドっぽくなったことを思い出している。 ついでにと言っては何だが、東日本大震災が起こった後に、私たちの国のメディア状況や世論のあり方が、なにからなにまですっかり変貌してしまったいきさつにも思いを馳せざるを得ない。 世界を世界たらしめているのは、平時の人間の日常的な思想だ。 が、歴史を新しい段階に追いやるのは、非日常のアクシデントだ。 天災や、事故や、組織犯罪や、無慈悲なテロや、偶発的な国境紛争や、狂気に駆られた人間が引き起こす
国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)について、ややこしいニュースが流れてきている。 いくつかのメディアが報道しているところによれば、ユネスコは、このほど、中国が申請していた「南京大虐殺の記録」を世界記憶遺産(Memory of the World)に登録したというのだ。 事態を受けて、菅義偉官房長官は、10月12日に出演した民放の番組の中で、ユネスコに拠出している拠出金について「政府として停止、削減を含めて検討している」と表明した(こちら)。 「ユネスコ」は、私の世代の者にとって特別な価値を持った名前だ。個人的には、「国連」そのものよりもありがたみが大きい。 というのも、高度成長期の東京近郊に生まれ育った人間は、小学生の時代に遠足などの機会を通じて、埼玉県所沢市にあった「ユネスコ村」を訪れた経験を持っているはずだからだ。 ユネスコ村は、1951年に日本がユネスコに加盟したことを記念して開演
今年もノーベル賞の季節が終わった。今年は医学・生理学賞に大村智氏、物理学賞に梶田隆章氏と二日続けて日本人受賞者が出たので、日本中が祝賀ムードで沸いた。彼らの業績を一般庶民の私たちがものすごく深く理解しているわけではないのだが、純粋に同じ日本人の受賞がうれしい。これは当然の人間心理だと思っている。 なので屠呦呦氏が中華人民共和国民として初の自然科学分野のノーベル賞、ノーベル医学・生理学賞を受賞したことに、中国人はさぞ大喜びをしていると思っていた。確かに最初の第一声は、歓声であった。だが、それに続く報道や世論がどうも微妙だ。純粋に喜び、祝福する声だけでないのである。それどころか、疑惑とか議論とネガティブな報道も多い。これはどうしたわけだろうか。 切望かなった自然科学分野の受賞 屠氏は、ノーベル平和賞の劉暁波、ノーベル文学賞の莫言両氏に続く中華人民共和国3人目の受賞者。中国人民が切望していた自然
気になる記事をスクラップできます。保存した記事は、マイページでスマホ、タブレットからでもご確認頂けます。※会員限定 無料会員登録 詳細 | ログイン 前回は日本人男性ムスリムの話を紹介した。そこで今回は、日本人の女性信者に登場してもらおう。 東京の北多摩に住むイーマーンさんは、ヒジャーブと呼ばれるスカーフをまとい、毎朝、港区の会社に通勤している。彼女がイスラム教に最初に出会ったのは、10年以上前のこと。コーランの暗誦コンテストを見たマレーシア旅行まで遡る。その時アラビア語に興味を持ち、勉強したいと思った。しかし仕事が忙しく、実際にクラスを取り始めたのは今から6年ほど前だ。先生たちが皆ムスリムだったことや、自分でコーランの日本語訳を読んだことから徐々にイスラム教との距離が縮まり、4年ほど前に入信した。以来、普段からイスラム教の教えを極力守る努力をしているという。「礼拝をするとか食べてはいけな
突然といっていいだろう。9月11日、内閣官房・内閣情報調査室(内調)は、情報収集衛星(IGS)で撮影した、鬼怒川の水害の情況の画像を公開した。公表された画像は2枚。デジタル処理で解像度を落としてあるが、IGSで取得した画像が公開されたのは、これが初めてである。 画像公開の背景には、内調が、現在衛星4機体制のIGSを8機体制に倍増させ、さらに衛星間通信を行うデータ中継衛星を新たに保有する意志を示していることがある。 ところが、同じ11日、グーグルは、災害関連情報を集約して表示するサイト「Googleクライシスレスポンス」で、水害地域の詳細衛星画像を公開した。米民間地球観測会社の衛星が取得した画像は、デジタル処理で劣化させたIGS画像より鮮明。かつグーグルマップの上に重ねて表示され、拡大縮小も自由自在。利用者の利便性は衛星情報センターの2枚の画像を圧倒的に上回っていた。虎の子の画像を公開するこ
財務省がまとめた「軽減税率」案の内容が明らかになった。 新聞の記事を読んで、ちょっと茫然としている。 あまりにもバカげて見えるからだ。 もし財務省が、本気でこのプランを実行するつもりでいるのだとしたら、彼らの現実感覚は、かなり致命的にズレていると申し上げなければならない。 あるいは、一連の記事は、いわゆる「観測気球」であるのかもしれない。というよりも、今回の「案」は、消費税率についての実際の運用を、財務省が想定している最終的な落としどころに落着させるための、とりあえずのブラフなのかもしれない。つまりこれは「見せ金」なのだ。いくらなんでも、まさかこのまま実行するつもりのガチな計画ではないはずだ、と、そういうふうに解釈しないとこちらの理解が追いつかない。 念の為に、「財務省案」の概要を説明しておく。 軽減税率の対象となる品目は、基本的に、外食サービスを含む「酒類を除くすべての飲料と食料品」とい
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