2年前のことだ。MBAランキングトップのハーバードビジネススクールを蹴って、ランク91位のシンガポール大学ビジネススクールを選んだのだった。 「お前、頭が狂ったんじゃないの」と周りから真顔で言われたものだ。 エリート街道を突っ走ってきた大学の仲間たちに心配されたのも、当然だった。当の本人も、あの宇佐見のオヤジにそそのかされていなければ、今頃はボストンの学生街で祝杯を挙げていたのに、と時折思うことがある。やはり、ネームバリューにはかなわない。 (でも、オレの選択は間違っていなかった) 2年間の学生生活を振り返って達也は満足している。宇佐見のオヤジといっても、達也の父親ではない。大学の恩師であり、人生の師匠のことだ。達也は大学4年の時「管理会計」のゼミを取った。その時の担当教授が宇佐見秀夫だった。 宇佐見は学者と言うより、知る人ぞ知る経営コンサルであり、根っからの実務家である。公認会計士の資格
「これを見てくれないか」 達也は請求書のファイルを真理に渡した。 「“王川梱包”って印刷されてますね」 真理も驚きを隠さなかった。玉川(タマガワ)ではなく王川(オウカワ)だったのだ。 「仕入れ先情報を確認してくれない?」 達也は、はやる気持ちを懸命に抑えて言った。 真理はパソコンを操作して、玉川梱包の登録情報を開いた。そこには、玉川梱包に関する様々な情報が記録されていた。 真理は声を出してゆっくり読み始めた。達也は細心の注意を払って、請求書に書かれた文字と数字を追った。 住所は一致していた。しかし、電話番号と口座番号は玉川梱包のものではなかった。 その瞬間、点と点が結びつき、達也の疑問は一瞬で氷解した。 「こんなことが本当にあるんだ」 「本当にある…?」 真理が聞き返した。 「こういうことだよ」 達也は興奮してそのからくりの説明を始めた。 井上は正規の請求書を玉川梱包から直接入手する。次に
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