わたしはこの事件をよくおぼえている。つたえられたあらましがあまりに奇妙だったからだ。行方がわからなくなった、というのがたぶん第一報で、つれさられた、との続報がながれたのは、それからすこしあとだとおもう。報道された断片によれば、被害者は小学5年生、祖父母と叔父と暮らす10歳の女児で、加害者はその近所にすむ40代の中年男。女児がかえってこないので、家族が警察に相談し、逃亡、いや誘拐か、があかるみにでたのだけれど、といっても、どうやら交流は以前からのようで、かれらの小旅行は、今回がはじめてでもないらしい。しかも、おとずれた沖縄で、ふたりは親子だといつわり、男がはたらく運転代行業者の寮に住み込んでいた。それまでの逗留先では、少女がみずから宿帳になまえを記していたという。金銭を管理していたのも男ではなく、女児で、那覇行きのチケットを買ったのも彼女だそうだ。男にたいする少女のふるまいは、傍目にかなり傲