こんな野郎も珍しい。 三原山の火口に飛び込み、火葬の手間を一挙に省き、文字通りひとすじの煙となって昇天する輩なら、ダースどころかグロス単位で存在していた昭和日本。 ところがこの日、古賀某なる二十三歳の会社員が飛び込んだのは、三原山にあらずして、それより西南西の方角に800㎞ほどいったところの、阿蘇山中岳第一火口だったのである。 (Wikipediaより、2009年の中岳火口) 彼が日夜起居していたのは佐賀県久留米市のうらぶれた下宿だったから、はるばる三原山まで行く手間を面倒がったのかもしれない。 安価に近場で片付けちまえということで。 薄明、朝靄をおしてえっちらおっちら斜面を登り、先着していた観光客を掻き分け掻き分け、最前列に出るが早いか、気合一番、えいやとばかりにI can flyをやってしまった。 当時の第一火口というのは、湯だまりがエメラルドグリーンの淵を湛えて、白煙がまるで羽衣のよ