虎は獅子より先に来た。 上野動物園の話をしている。 百獣の王の来園は二十世紀突入後――西暦一九〇二年、元号にして明治三十五年まで待たなければならなかったが、虎はそれより十五年も先駈けて、この地であくびをかいている。 (Wikipediaより、上野動物園正門) 明治二十年、チャーネリーとかいうイタリアから来た興行団の飼い虎(・・・)が、折よくも秋葉原で子を産んだ。 その子を目当てに動物園が交渉し、最終的にヒグマと交換条件で話を決着。愛らしさの塊のような四ツ脚を、晴れて迎えたわけである。 幸い飼育は上手く運んだ。日に日に猛獣らしさを獲得してゆく秋葉原の虎。客の人気もうなぎ登りだ。 ところがこの人気者には、いつまで経っても治らない、困った癖がひとつある。 白い服が駄目なのだ。 中身は関係ない。とにかく白衣を着こんだ人間を目の当たりにしたが最後、ぱっと瞳に怒りが燃えて、異様な興奮を示しだす。 目を