深海魚漁が盛んな静岡県沼津市戸田(へだ)地区で、特産のタカアシガニの甲羅に絵筆で色を塗ったお面作りが大正時代から続いている。一度は作り手がいなくなり途絶えたが、元漁師の男性が本格的に取り組み始め、地域に根付く風習が息を吹き返した。(今坂直暉) 潮風が吹き込む自宅の居間で、石原逸雄(いつお)さん(75)が凹凸のある甲羅にすらすらと筆を走らせた。白い下地を塗り、その上にひょっとこの顔。石原さんが手掛けた数百枚のお面は、地元の道の駅などで展示されたり、高齢者施設に寄付されたりしてきた。「絵は得意で、陸に上がってから趣味のつもりでやってたんだ。それが今では、ブヨブヨしたやつに堅いやつ、人間と同じで甲羅にもいろんなのがいると分かるようになってきた」。お面作りを始めたきっかけを語り始めた。 二〇一一年、お面作りの当時の第一人者、勝呂(すぐろ)満夫さんが他界。勝呂さんは地元の風習を伝統として残そうと奮闘