老いや病の描写もまた、不可逆だ。 父・常治(北村一輝)がお金のために長距離輸送の仕事を請け負ったは良いが、無理がたたって身体をこわし、亡くなったり、マツ(富田靖子)が老いて何度も同じことを言うようになったり。武志の身体を病が着々とむしばんでいく中、「絶対に死なさへん」という母の決意も、周囲の人々の協力もまた、武志を救うことはできなかった。そして、大人たちも身体にガタがくるなど、老いてきている。 度重なる厳しい現実と、一度失ったら取り戻せないモノの数々。出会いと別れが繰り返される中、悲しみを乗り越え、自身の糧としながら、喜美子は強くたくましく前を向いていく。居間で食事をする、工房に佇む、坂道を歩く一人の姿はとてつもなく孤独だが、強さと凛々しさを漂わせている。 そんな中、この作品を振り返るとき、いつもあたたかな光として思い出されるのは、序盤のわずかな期間に描かれた「荒木荘」での女中修行の日々だ