久しぶりに山本夏彦の新刊『浮き世のことは笑うよりほかなし』が上版された。工作社の月刊誌「室内」に、山本夏彦が聞き役となって掲載された対談がまとめられたものである。 山本夏彦が、その文章に惚れこんでいた向田邦子とのやりとりや、その江戸時代の知識にシャッポを脱いだ小木新造との会話など、印象に残る対談が目白押しである。そんな中、出久根達郎さんの古本話に、夏彦翁がズイと身を乗り出して語る下りがある。 出久根:でも先生、本もまた主人を選ぶといいますか、このへんが古本のおもしろさでしょうね。人も本を選ぶけれども本もまた人を選ぶ、呼びかけるんですね。山本:そうです。古本てえものは死んだふりしてなかなかしなないんですよ。お客が入ってくると、いっせいに振り向くんです、ひょっとしたら自分の友じゃないかとか、自分の知り合いになりうる人じゃないかって見るんですね。縁のない人と思うとまた長い眠りにはいるんです。それ