学生時代につきあっていた恋人は、とある宗教の熱心な信者だった。知り合った当初は知らずにいた。理数系科目に弱い私が何か非科学的なことを言ったり、無機物を擬人化してかわいがったりするたびにケタケタ笑うので、「私よりも格段に科学的な物の考え方をする人」だと思い込んでいた。 酒の席で政治と宗教の話はタブーだ、とよく言われるが、私の学友たちは、そんなタブーを好んで酒の肴にした。長くカトリック校に通っていた私、寺を継げと言われて進路に悩む住職の息子、趣味で巫女のバイトをしている同輩、外国語学習に熱中するあまり彼の地の神話世界を研究テーマに選んだ後輩、集まるといろいろな話をした。神を信じるか、死後の世界はあるか、宗教戦争はなくせるか、政教分離は可能か、オウム真理教事件はなぜ起きたか、カルトとは何か、終末期医療に宗教はどう関われるか。 恋人はそんなとき、人を救うはずの宗教が人を殺めることなど絶対にあっては