塩野義製薬を含む日本の製薬会社のワクチン開発が欧米勢より遅いのはなぜでしょうか。 手代木功・塩野義製薬社長(以下、手代木氏):ワクチンや治療薬、診断薬を開発するフットワークが重いのではないかと見られていることについては、真摯に受け止めないといけないと思っています。 もちろん、日本の製薬会社は規模が欧米に比べて小さいとか、バイオ医薬品の潮流に全体として乗り遅れたとか、そういった理由もあるでしょう。ただ今回、欧米で接種が始まっているメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンにしても、ウイルスベクターワクチンにしても、日本にそうしたプロジェクトをやるベンチャーや製薬会社がなかったのは、産官学でそうした基盤を育ててこなかったからです。その点については、欧米に学ぶところは多いと思います。 また、緊急事態だという割には、緊急時に備える制度が不十分という点もあります。米国では、Emergency Use
「日本型雇用が行き詰まっている」ということで雇用を巡る改革の動きは長年続いてきました。今いわゆる「ジョブ型」を中心とした議論が盛んになっています。海老原さんはどんなふうにご覧になっているんでしょうか。 海老原嗣生・雇用ジャーナリスト、ニッチモ代表取締役(以下、海老原氏):僕が人材系の仕事に携わるようになったときの初っぱなの議論が「新時代の日本型雇用」でした。今から30年前くらい、日経連(現在の経団連)が主導したプロジェクトだったんですね。あのとき問題になっていたのは、1990年代のバブル崩壊で業績が落ち込んで、会社の中のポストがなくなったこと。定期昇給で給与が上がり続けるという仕組みも終身雇用も難しくなっている中で「日本型でいいのか」という話でした。 海老原嗣生(えびはら・つぐお)氏 ニッチモ代表取締役、政府労働政策審議会人材開発分科会委員、中央大学大学院戦略経営研究科客員教授 1964年
「止まらない本離れ」「街から本屋が消える」……。暗い話が目立つ出版業界だが、そんな“衰退論”を覆そうとする人々がいる。顧客が本に出合う場を変え、出合い方を変え、出合う意味までも根本から考え直す。そこには他業界にとっても価値がある、人口減時代に生き残るマーケティングのヒントがある。 2020年1月31日~2月1日の2日間、東京・二子玉川駅直結の商業ビルに挟まれた半屋外広場「二子玉川ライズ ガレリア」が、大勢の人でごった返した。建物の間を冷たい風が吹き抜ける中にもかかわらず、来場者は昼から夜まで途絶えない。目当てにしているのは、その場に集まった40店の「本屋」だ。 このイベント「二子玉川 本屋博」は、二子玉川の蔦屋家電を中心とする実行委員会が、独自の選書や販売の工夫で知られる全国の書店の協力を経て初めて実現したもの。出店者はブックオフコーポレーションが展開する「青山ブックセンター」のような有名
「事件」は訪問介護の現場で起きた。 2019年8月、自宅で介護サービスを受けていた後期高齢者の男性が、60代の男性スタッフのA氏に故意に押し倒されるトラブルが発生した。利用者の男性にケガはなかったものの、一歩間違えば惨事になりかねない出来事。A氏が働く訪問介護サービス事業者の社長は、ただちに事実関係の調査に乗り出した。 介護の現場での虐待は社会問題となっている。厚生労働省によると、養介護施設従事者などによる虐待件数は年々増加し、2017年度は510件と前年度から約13%増加。主な原因は、典型的な人手不足の職場で働かされ、たまっていくスタッフ側のストレスであるといわれている。 ただ、A氏と面談したカウンセラーは、そうしたストレスによる虐待は、人手不足の解消を急ぐあまり“介護の現場にすぐには適応できない職員”を無理やり雇用している側にこそ責任がある、と考える。 当事者の口から出た意外な理由 問
テレビ東京アナウンサー・西野志海と日経ビジネス編集委員・山川龍雄が、世間を騒がせている時事問題をゲストに直撃する動画シリーズ。第23回のテーマは、減速目立つ景気指標「消費増税は正しかったのか?」。軽減税率やポイント還元など手厚い対策を盛り込んだが、それでも増税後の指標はさえない。塚崎公義・久留米大学教授は、円建て債務が中心の日本で「国債のデフォルトが起きる可能性は低い」と指摘。「国の借金が1100兆円を超える中で、5兆円程度の税収は誤差の範囲内。不安材料が多いこの時期にあえて増税する必要はなかった」と強調する。痛税感を伴い、景気への影響が大きい消費税よりも、資産課税を強化すべきだと提言。配偶者や子供がいない人の場合、「相続税8割」を主張する。
政府は就職氷河期世代に特化した支援策に今後3年間で600億円超を投じる。今年6月にまとめた経済財政運営の指針である「骨太方針」で氷河期世代支援を打ち出しており、この世代の正規雇用者を3年で30万人増加させる目標を掲げている。ただし、専門家からは「ピントがずれている」と厳しい声が上がっている。 就職氷河期とは一般的に、1990年代半ばから2000年代前半を指す。バブル崩壊によって企業は軒並み新卒採用を抑制。1990年代後半には一旦、採用数が持ち直したものの、97年のアジア通貨危機などによって再び景気が冷え込み、企業が採用を絞ったという経緯がある。この雇用環境が厳しかった時期に就職活動をした30代後半から50歳の「幅広い場での活躍を強力に後押しする」のが今回の政策の目的だ。 12月8日に閣議決定した「新しい経済政策パッケージ」では、就職氷河期世代を対象として、ハローワークに専門窓口を設置するこ
11月13日、香港中文大学で武装した警官隊と抗議者が激しく衝突した。言論と研究の空間である大学キャンパスに公権力が突入し、抗争が起きるまでに深刻化した香港政府への抗議活動。大学の自治が揺らぎ混乱が深まる現場で今、何が起きているのか。同大に在籍する若手日本人研究者がキャンパス内から緊急寄稿した。 新たな局面を迎えたデモ 11月8日に香港政府に対する抗議活動を巡る死亡者が出て、11日には警官が実弾を発砲し抗議者が重傷を負った。ストライキは香港全体に呼びかけられ、道路やMTR(鉄道)などの利用を妨げるため障害物が高架や歩道橋の上から落とされるようになった。警察はこうした妨害運動を理由に抗議者の拠点とされる複数の大学を直接攻撃対象とし、催涙弾をキャンパスに対し大規模に打ち込み始めた。(ただし、実際に妨害活動が始まったのが、警察の攻撃よりも前だったのか後だったのかについては諸説ある) その中でもとり
日本経済の先行きに不透明感が強まる中、注目を集め始めた中小企業の「淘汰論」や「不要論」。この大胆な理論を実行に移すとすれば、社会の混乱を防ぐために少なくとも次の2つの条件をクリアすることが欠かせない。 ①消滅する中小企業が生み出している付加価値を、残された企業(大企業中心)でカバーする。 ②消滅する中小企業が生み出している雇用を、残された企業(大企業中心)でカバーする。 2019年版の中小企業白書によれば、全ての日本企業に占める中小企業の比率は99.7%に上り、GDPのおよそ4分の1を支えているとみられる(2015年時点で25.4%、分母のGDPは531兆円で試算)。雇用でも日本の全雇用の約7割(68.8%)の受け皿になっているのが現実だ。 生産性の低い中小企業の淘汰を説くデービッド・アトキンソン氏の言う通りに、中小企業を半減させれば、残された企業が補わねばならない付加価値と雇用は膨大にな
2018年に創業100周年を迎え、「くらしアップデート業」への変革を打ち出したパナソニック。変わらなければいけないという津賀一宏社長の焦燥は、日本マイクロソフトの社長などを歴任した「出戻り」の樋口泰行氏(パナソニック コネクテッドソリューションズ社長)に一部託された。出戻って2年半。パナソニックは変わったのか。 ■お知らせ■ 【日経ビジネス Raise Live】 パナソニック コネクテッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授を招いた対話イベント「日経ビジネス Raise Live」を開催します。樋口氏はパナソニックをどう変えようとしているのか。気鋭の経営学者、入山教授が切り込みます。対談を通じて、日本的大企業を変革し、新しい時代を切り開くためのヒントを読者の皆さんと一緒に探ります。 参加ご希望の方は、記事最後の募集要項をご覧ください。 ■
体脂肪計で国内シェア首位の健康機器メーカー、タニタ(東京・板橋)は2017年に新しい働き方の制度を導入した。タニタの社員が「個人事業主」として独立するのを支援するというものだ。独立した人には、従来のタニタでの仕事を業務委託し、社員として得ていた収入を確保する。こうすることで働く時間帯や量、自己研さんにかける費用や時間などを自分でコントロールできるようにするのが狙いだ。副業としてタニタ以外の仕事を受け、収入を増やすこともできる。 発案者であり、制度設計を主導した谷田千里社長は、「働き方改革=残業削減」という風潮に疑問を抱いていたという。働きたい人が思う存分働けて、適切な報酬を受け取れる制度を作りたいと考え、導入したのがこの「社員の個人事業主化」だ。開始から2年半がたち、手ごたえを感じているという谷田社長に話を聞いた。 対象はタニタ本体の社員のうち、希望する人。退職し、会社との雇用関係を終了し
日本郵政傘下のかんぽ生命保険で契約者の不利益につながる保険契約の乗り換えが見つかった問題を巡り、保険販売元の日本郵便とかんぽ生命は7月10日に会見を開き、謝罪した。同社は6月、保険商品の乗り換え販売時に、健康状態などを理由に保険が再契約できず、無保険状態の顧客を作ってしまったケースが1万8900件あったことを発表したばかり。ずさんな販売体制が再び露呈したことで、金融庁が販売体制の改善を求める可能性も出てきた。 今回明らかになったのは、旧契約の解約から新契約までの4~6カ月間、顧客が無保険状態に置かれていた事案や顧客に保険の新旧契約を重複して結ばせ、保険料を半年にわたり二重に払わせたという事案だ。こうした事案は多数あったとされるが、会見で具体的な件数は公表されなかった。内部資料によると前者は4万7000件、後者は2万2000件と言われている。 問題の背景には、旧契約の解約タイミング次第で保険
前回の「品川の介護施設殺人に思う、人員不足の怖さ」では、人手不足が介護施設に与える大きな悪影響と、そういう施設を避けるための5か条をお話しました。 この5カ条があれば、少なくとも人手不足によるトラブルが起こる可能性は低い施設といえましょう。でも、私にはそれ以前に、「親の介護を老人ホームにお願いしよう」と思ったら、まずあなたに“時間”をかけてほしいこと、があるのです。 それは何か。施設に入居する本人、「親の価値観を知ること」です。 メディアの施設選びについて言いたいのもここです。「施設を研究する前に、まず、目の前の親と向き合っていただきたい」と思うのです。 私は、できることならば、ご本人がお元気なうちから、親の、一人の人間としての価値観を知る機会を作っていただくことが一番大事だ、と思います。 「自分の知らない親を、介護スタッフに教わりました」 父親も母親も、あなたの前では“親”としての役割を
パーソルグループのパーソル総合研究所と中央大学は2018年10月、「20年の日本の人手不足数は384万人」と推計した。一方、リクルート研究所によれば、会社に籍を置きながら事業活動に活用されていない人材である「雇用保蔵者」が約400万人いるという。日本の人手不足が深刻化しているのは、企業が本当の意味で生産性を高めていないからではないか――。日経ビジネス3月25日号「凄い人材確保」では、そんな人手不足の真実を研究した。 生活費を考慮しない最低賃金 「低い最低賃金が人手不足を助長している」。静岡県立大学の中澤秀一准教授はそう主張する。生産性を高めるための企業努力よりも、安い人件費の労働者を活用する方が利益を得やすいため、多くの人材を浪費する非効率な仕事が減らないのだという。 法律によれば、最低賃金は「労働者の生活費」「類似の労働者の賃金」「通常の事業者の賃金支払能力」3つの要素を考慮して決めなけ
私が代表を務めるNPO法人「となりのかいご」は、「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」をミッションに、2008年(当時は市民団体)から活動を続けています。 この団体を立ち上げたきっかけは、私が介護の現場で働いていたとき、在宅介護において介護をひとりで抱え込み過ぎたことにより、介護者が心身ともに余裕を失い、介護をしている人に手を上げてしまう場面に直面したことでした。「虐待に至る前に何かできることはないだろうか」と、考えるようになったのが原点です。そして、「必要なのは、介護する人へのサポートだ」ということに気がついたのです。 2014年にはNPO法人となり、「仕事と介護の両立」をテーマに企業や地域でセミナーを開催。個別相談や問題解決に向けたサポートも行っています。ここ最近は企業に出向いて、社員の方々ができる限り介護離職をせずに「仕事と介護の両立」をしていけ
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