1Q84 BOOK 1・2 [著]村上春樹[掲載]2009年6月7日[評者]鴻巣友季子(翻訳家)■「根源悪」を追究 何かが変わった なにか吹っ切れた感じがする。あのとき感じた「意志」は実践されたのだ――7年ぶりの新作長編を読みだしてすぐにそう思った。前作の中編『アフターダーク』には、深い森から踏みだす決意のような、飛び立つ直前の構えにも似た気配が漂っていた。『1Q84』には、新しい村上春樹がいる。読者は「何かが変わった」と感じるだろう。その一方、やはり村上ワールドは不変とも思うだろう。 オウム真理教の問題に向きあい、90年代に2冊のノンフィクションを書いた作者が、事件から14年を経てカルト教団を素材に小説を発表した。舞台はイラン・イラク戦争が続くバブル以前の1984年。予備校講師をしながら小説家を目指す「天吾」と、スポーツジムに勤めながら非道な男たちの殺しを請け負う女性「青豆」2人の視点で