すばらしい。 うつくしく、かなしく、おそろしく、そして希望にみちた作品。 漫画界この10年の最大の収穫、というオビの文句は、あながち誇張ではない。 夕凪の街 桜の国【新装版】 (ゼノンコミックスDX) 作者:こうの史代 コアミックス Amazon 作者は、ほぼ、ぼくと同世代で、完全な戦後世代である。戦争や原爆の体験はおろか、その「におい」さえも体感できない世代だ。戦後世代にとって、あの時代の「リアル」をどうとらまえて形にするか、苦闘が続けられている。そのみごとな結晶の一つが本作だ。 戦後世代は、戦争を体験した世代には有効だった表現を、ともすれば「力みすぎ」といったように受け取ることがある。逆に、力をぬきすぎたり、奇をてらうと、届かない。戦後世代にとどける「戦争漫画」というのは、思いのほか難しい。実在したリアルをどう内面のリアルへと結晶させるか。こうの史代はこの課題にみごとに応えた。 こうの