「日本語のすでに滅びし国に住み短歌(うた)詠み継げる人や幾人」。台湾の医師で歌人の呉建堂(筆名・孤蓬万里(こほうばんり))の作品だ。旧制台北高校時代に和歌を始めた。呉が編さんした「台湾万葉集」は日本でも高く評価され、1996年に菊池寛賞を受賞した▲日本統治下で育った台湾人には、母国語同様に日本語を操る人が多かった。李登輝元総統もその一人だ。独立運動に関係して台湾を逃れ、日本を拠点に活動した邱永漢(きゅうえいかん)は55年に「香港」で直木賞を受賞している▲戦後75年を過ぎ、日本語世代はだんだんと姿を消している。呉が残した歌のように「日本語のすでに滅びし国」と思っていたが、全く新しいタイプの「詠み継げる人」が登場した。「彼岸花が咲く島」で芥川賞を射止めた台湾人作家の李琴峰(りことみ)さん(31)だ▲日本語を学び始めたのが15歳というから驚きだ。母国語以外の言語で選考委員をうならせる表現力を身に