そういえば弟さんって今なにしてるんだっけ。何気なく訊いたら、彼女はわずかに眉をこわばらせて、それからほほえみ、働いてる、たぶん、とこたえた。たぶん? この五年近く、ほとんど話をしていないの。彼女はそう続けて私を困惑させる。五年前なら、彼女は二十七歳だ。きょうだいでけんかする年齢でもない。でもしたの、と彼女は言った。弟とけんかしたの、そして弟はもう私を許さない。 五年前、彼女の弟は二十三で、二浪して入った大学をやめたところだった。両親は途方に暮れて、すでに長く家を離れて暮らしていた彼女を呼んだ。長女、次女、三女、長男という構成のきょうだいで、弟は小さいころから長姉である彼女になついていた。 彼女の弟は両親の期待にそえないことを気に病むあまり、かえって両親の望む方向に注力することができない。彼女にはそのことがよくわかっていた。彼女の弟は勉強が好きな子どもではなかった。けれども両親は弟の大学進学