「学芸員実習に思う」として、昔語りを3回書きましたが、学芸員志望の学生さんたちへ、もう1回だけ書き留めておこうと思います。 ≪国鉄職員だからキップを切るのか、キップを切るから国鉄職員なのか≫ 私は、<仕事>という営為に対する関心があって、長い間いつもそのことを考えてきました。それは、自分の専門が日本近代史であるという理由では必ずしもなく、自らが一人の職業人であるというところから発しています。<仕事とは何か>、その疑問を解くために、識者の書物も読んできました。 そのなかで出会ったのが、黒井千次氏の『働くということ 実社会との出会い』(講談社現代新書、1982年)です。黒井氏は、作家になる前、15年ばかり富士重工で会社勤めをしていました。自身の体験に基づくこの本に、私はとても共感したのです。黒井氏が経験した一つ一つの事柄には、それ固有の意味があると思われるので、本書全体の要約はしないでおこうと