新酒、古酒、清酒、濁り酒、地酒、菊酒、白酒…お酒にはさまざまな種類があり、それぞれに味わい深いものです。季節でいけば、この時季に多く登場するのは、付き合い酒、深酒、迎え酒、寝酒といった類のお酒でしょうか? さて、今回ご紹介するのは、古くて新しい酒、煎酒(いりざけ)。といっても、アルコール飲料ではありません。 醤油以前の調味料 煎酒(いりざけ)とは、読んで字のごとく、煎った(煮詰めた)お酒。日本酒に削り鰹節と梅干しを入れ弱火でとろとろと煮詰めたもので、室町時代末期に考案されたといわれます。江戸時代中期まで広く用いられ、醤油が希少品だった時代の日本料理にはなくてならない重要な調味料でした。 元禄9年(1696)刊の養生書『本朝食鑑(ほんちょうしょっかん)』にも「熬酒(いりざけ)」の記述があり、「近世庖丁人が作っていること、わが国に来ている中国人によれば中国にはこのようなものはないと言っているこ