よい商人は、異変の兆しを見逃さない 岡藤はつねに現場にいた。社内にいるのではなく、日中は取引先のラシャ屋を回り、さらに取引がないラシャ屋にも顔を出した。そして休日や、出張した先では紳士服を仕立てるデパート、テーラーへ行った。デパートへ行ったら、紳士服売り場だけでなく婦人服から雑貨、食料品までさっと見て歩いた。売り場の人に名刺を出すのではなく、一般の客として声をかけて世間話をした。 「何が売れているんですか?」と聞くわけではなかった。売れている商品は売り場を見ればわかる。彼が店員に聞いたのは売り場における「異変」だ。異変と言えば大げさかもしれないが、「何かおかしいな」「以前とは違っているな」と思ったことである。そして、それがほんのちょっとしたことであっても、気にかかったことは直接、売り場の人間に訊ねてみた。疑問が芽生えたら解決せずにはいられない。そういう性分が商人だ。 「デパートに行けば客の
