「山路を登りながら、こう考えた。智(ち)に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい……(中略)あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい」 これは夏目漱石の「草枕」の冒頭だ。 何故、いきなり「草枕」なのか。別段深いわけはない。たまたま長男が勉強しており、私の目に飛び込んできたのだが、改めてこの文章に触れてみると、思わず「深いなあ」とうなってしまった。20年以上の時を経て再び触れた言葉はやけに頭に心に残り、さまざまな思いにふけってしまった。 人の世をのどかにしているかどうかは分からないが、人の心を豊かにする、という点では間違いなくサッカーは芸術だろう。となると、選手たちは芸術の士となるわけだ。とすると、選手にものを伝える立場にいる指導者は何にあたるのだろうか。師匠? 親方? 先生? カテゴリーや監督とコーチ