【読売新聞】評・橋本倫史(ノンフィクションライター) テレビ東京で「ハイパーハードボイルドグルメリポート」という番組が始まったとき、正直に書けば、少し眉をひそめた。「ヤバい世界のヤバい奴(やつ)らのヤバい飯」という副題に、いかにもテ
「この本が売れなかったら、もうダメですよ」 いい感じに落ち着いた雰囲気の神保町の老舗喫茶店で、杉江さんはそう言った。 杉江さんは本の雑誌社の営業マンだが、何年か前から編集にも携わっている。 高野秀行さんがアフリカにある国際的には未承認の国家・ソマリランドを訪ねて体験した出来事を描くノンフィクション「謎の独立国家ソマリランド」は杉江さんが担当編集した。 自分で作るだけあってノンフィクションの本もたくさん読んでいて、杉江さんが何かしら反応する本は読んでみるとたいがい面白い。 その杉江さんが会ってすぐに「伊野尾さん、角幡さんの『漂流』読みました?」と聞いてきた。 ちょうどそのとき読んでいたところだったのでそのことを伝えると、「あ、やっぱり?いやーこれすっごい本ですよ!」と高いテンションで言ってきて、そのあとに続いたのが冒頭の一言である。 これだけ時間と労力をかけて取材して、それも読み進めるうちに
本に関する記事を毎日のように送り出しながら面白さを感じるのは、ネットのニュース記事などと比べて時間の流れ方の異なる点である。 予期していたかのようにタイムリーに出されたものもあるが、少し時間を経たからこそ全貌の見えてきたもの、社会的な関心事ではないが特定の層にはズバッとささるもの、時代の流れを全く読まなかったから生まれてきたものも、大半を占める。 時宜を得たものと突然変異、過去と未来、つながりと孤独、異なる2つの視点が隣り同士に並ぶ本棚こそが美しい。そこで今年HONZでよく読まれた記事の中から、各月ごとに上位2冊の書籍をピックアップし、2015年を振り返ってみた。 1月:「イスラム国(IS)」とホッケ 2015年は年明けから物々しかった。1月7日にイスラム過激派がフランスの「シャルリー・エブド」を襲撃。1月20日にはついに日本人が「イスラム国(IS)」の人質になる事件も起き、日本中を震撼さ
テレビをつけるといつも外国人から見た日本や日本人というテーマの番組が放送されている。実際、番組表を調べてみると、「YOUは何しに日本へ?」「ネプ&イモトの世界番付」「とっておき日本」「世界が驚いたニッポン! スゴ〜イデスネ!!視察団」などなど、盛りだくさんだ。 番組で繰り返し語られるのは日本の美しさや素晴らしさ。日本人は外国人から尊敬され、羨まれているという内容である。 テレビに映る「日本」は、まるで楽園のようだ。だが、その実情はどうなのだろうか。 中国・アジア事情に通じるノンフィクション作家・安田峰俊の新刊『境界の民 難民、遺民、抵抗者。国と国の境界線に立つ人々』は、国民国家体制の狭間で生きる人々を追ったルポルタージュである。本書の主人公たちは、在日難民2世、ウイグル人、台湾人、中国人と日本人のハーフたち。彼らは様々なかたちで日本や日本人と接点を持っており、その点で本書はよくあるマイノリ
新年あけましておめでとうございます。 昨年はほんとうに忙しかった。というか、その慢性多忙状態はずっと続いており、 昨日の大晦日も、そして今日つまり元日も、朝から晩まで仕事と雑務に追われている。 ブログを書いている余裕はさらさらなく、読書量も減ってしまった。 でも、せっかくなので(というか仕事に疲れたので)、例年通り、ベストテンをあげてみる。 あくまで私が「2014年に読んだ本」なので、出版年が古いものも混じっている。 あと、言うまでもなく、順位はかなりてきとうだ。 <ノンフィクション> 1.片桐はいり『私のマトカ』(幻冬舎文庫) 片桐さんの文章力には本当に驚かされた。こんなに伸びやかな文章に出会ったのは久しぶりな気がする。『グアテマラの弟』もよかった。 2.田原牧『ジャスミンの残り香』(集英社) アラビア語を駆使して現地の人々の間に分け入っていく田原さんは信用できる。エジプトとシリアの現状
いよいよアブディン『わが盲想』(ポプラ社)が本日発売である。 宮田珠己部長には前もって献本しておいたが、昨日早速こんなツイートを発信してくれた。 「読んだ!読みやすくて面白い。 盲目でこれを書いたのも凄いが、いきなり日本に来るのも凄い。 なのに本人は結構怠け者なところがいい。 しかし、実際に会う前に婚約ってどんな感じなんだろ。」 私はこの本が売れることを確信しているが、一つだけ心配なのは、アブの日本語が上手すぎること。 本書の「はじめに」にも書いているし、私も何度も繰り返しているにもかかわらず、いまだに「あれ、ほんとにアブディンさんが自分で書いたんですか?」 とか「高野さんが書くのを手伝ってるんじゃないですか?」と訊かれる。 いや、私は一切書いてないんだって。 プロデュースというから、なにやら作り上げているような感じがするかもしれないが、 実際にやってるのは普通の熱心な編集者と同じ。 「こ
タイ女性と結婚し、バンコクに十数年暮らしている友人Aさんが、「高野さん、この本、すごく面白いよ」と盛んに勧めるので 大内治『タイ・演歌の王国』(現代書館)を読んだ。 大内さんの名前は言われて思い出したのだが、以前『タイ天使の国から――性を売る女たち』(マルジュ社)というタイの娼婦についての本を読んだことがある。 タイトルからはあまり期待できなさそうなのだが、これがすごくタメになる面白い本だった。 大内さんはどういう人か皆目わからないが、バンコクに十数年暮らしており、雑誌や書籍も自在に読めるタイ語力を駆使して、 具体的な事例やデータをたくさん引っ張ってきていた。しかも、文章も上手。 私が『極楽タイ暮らし』を書いたとき、いちばん参考にさせてもらったネタ本で、今でも付箋がたくさん貼り付けられている。 その大内さんの第二作が『タイ・演歌の王国』なのだが、読んでみたら、果たして労作にして名著だった。
高野秀行はいくつもの意味で天才だと思う。 アマゾンで高野の作品をみると、31商品ヒットし、そのほとんどが☆四つ以上、中には☆五つもある。そう、どの作品もおもしろいのである。親戚や親しい友人が20名くらいいて、星稼ぎしているという可能性は否定しきれないところではあるが、それはないということにしておこう。しかし、ご本人がおっしゃるところ、あまり売れてないらしい。作品はつぶぞろいなのに売れてない。とりあえず、天才にありがちなことではないか。そう、ゴッホ並みなのである。 ☆を見たら面白そうだとわかるはずなのに読まれていなというのは、読まず嫌いの人が多いにちがいない。そういう人たちは、今回の『謎の独立国家ソマリランド』略して『謎ソマ』を機会に悔い改めて、ぜひ読んでみるように。とはいうものの、私もそれほど前からの愛読者ではない。一昨年に刊行された『イスラム飲酒紀行』以来、高野ワールドにどっぷりはまり込
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