1. 『帝国の慰安婦』における「植民地/占領地」図式 日本軍「慰安婦」とされた女性たちの境遇が多様であったこと、その多様性をもたらす要因の一つが女性の国籍およびエスニィシティであったことは先行研究においても指摘されてきたことである。その限りでは、「植民地出身の慰安婦」と「占領地出身の慰安婦」の区別そのものは目新しいものではない。『帝国の慰安婦』の特徴は植民地/占領地という区別を強調することにより、占領地出身の「慰安婦」は「厳密な意味では『慰安婦』とは言えない」(45ページ)とまで主張するところにある。 では植民地出身の(というより朝鮮人の)「慰安婦」と占領地出身の「慰安婦」の違いとは何か? 『帝国の慰安婦』によれば、その違いは「そこで朝鮮人は『日本人』でもあった」(57ページ)こと、他民族の「慰安婦」とは異なり「〈故郷〉の役割」(45ページ)や「女房」(71ページ)としての役割、「精神的『