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ブックマーク / dain.cocolog-nifty.com (95)

  • 死ぬときに思い出す傑作『イギリス人の患者』

    死ぬときに思い出す小説の一つ。 あれを読めば良かったとか、これがまだ途中だったとか、未練は必ずあるはずだ。どんなに読んでも足りることはないから。そんな後悔の中で、エピソードや描写を思い出し、読んでよかったと言える作品の一つが、『イギリス人の患者』だ。 映画が公開されたときだから、20年以上前に読んだのだが、いま再読しても美しい。詩的で情緒豊かに紡がれる、四人の男女の破壊された人生の物語だ。 あらすじはシンプルだ。 第二次世界大戦の終わり、イタリア北部の半ば廃墟となった修道院が舞台となる。そこで生活を共にするのは、看護婦のハナ、泥棒のカラヴァッジョ、インド人の工兵のキップ、そしてイギリス人の患者となる。人生のわずかな期間にすれ違う男女が、自身の半生を思い出す。 ただし、けっして読みやすい、ストレートなお話ではない。 時系列は無警告で前後するし、エピソードの粒度や解像度はバラバラだ。後になって

    死ぬときに思い出す傑作『イギリス人の患者』
    lenore
    lenore 2024/06/23
    一瞬分からず一呼吸考えて「イングリッシュ・ペイシェント」かー、となった。「イギリス人の患者」たしかに読む人を選びそうなタイトルです。
  • ジョージ・オーウェル『1984年』を山形浩生訳で読んだら驚くほど面白かった

    有名だけど退屈な小説の代表格は、『一九八四年』だ。全体主義による監視社会を描いたディストピア小説として有名なやつ。 2017年、ドナルド・トランプが大統領に就任した際にベストセラーになったので、ご存知の方も多いだろう。「党」が全てを独裁し、嘘と憎しみとプロパガンダをふりまく国家が、現実と異なる発表を 「もう一つの事実(alternative facts)」 と強弁した大統領側近と重なったからかもしれぬ。 『一九八四年』は、学生の頃にハヤカワ文庫で読んだことがある。「ディストピア小説の傑作」という文句に惹かれたのだが、面白いという印象はなかった。 主人公のウィンストンは優柔不断で、あれこれグルグル考えているだけで、自ら行動を起こすというよりも、周囲の状況に流され、成り行きで選んでゆく。高尚な信念というより下半身の欲求に従っているように見える。 「党」を体現する人物との対話も、やたら小難しく何

    ジョージ・オーウェル『1984年』を山形浩生訳で読んだら驚くほど面白かった
    lenore
    lenore 2024/01/27
  • この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    「いつか読もう」はいつまでも読まない。 「あとで読む」は後で読まない。 積読をこじらせ、「積読も読書のうち」と開き直るのも虚しい。人生は有限であり、が読める時間は、残りの人生よりもっと少ない。「いつか」「そのうち」と言ってるうちに人生が暮れる。 だから「いま」読む。 10分でいい、1ページだっていい。できないなら、「そういう出会いだった」というだけだ。「いま」読まないなら、「いつか」「そのうち」もない。 に限らず情報が多すぎるとか、まとまった時間が取れないとか、疲れて集中できないとごまかすのは止めろ。新刊を「新しい」というだけの理由で読むな。積読は悪ではないが、自分への嘘であることを自覚せよ。「いま」読むためにどうしたらいいか考えろ。「」にこだわらず読まずに済む方法(レジュメ、論文、Audible)を探せ。難解&長大なら分割してルーティン化しろ。こちとら遊びで読書してるんだから、仕事

    この本がスゴい!2022: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
  • 面白い世界史の本を3人で2時間お薦めしあった中から厳選した12冊(前編)

    お薦めの世界史のについて、3人で2時間語り合った。 世界史を学びなおす最適な入門書や、ニュースの見方が変わってしまうような一冊、さらには、歴史を語る意味や方法といったメタ歴史まで、脚家タケハルさん、文学系Youtuberスケザネさん、そして私ことDainが、熱く語り合った。 全文はyoutubeで公開しているが、2時間超となんせ長い。なのでここでは、そこから厳選して紹介する。 因果関係を補完する『詳説 世界史研究』 スケザネ:大学生、あるいは社会人の方々にも、世界史を学ぶには、まず真っ先に「高校世界史」をオススメしたいです。世界の歴史を幅広く知るという観点から、高校世界史はベストだと思います。 代表的な高校世界史の教科書は、山川出版社の『詳説 世界史B』。世界史の概観が400ページぐらいにまとめられてて良いなんですが、これだけだと記述が簡素で、理解するには少ししんどい。 実際、自分が

    面白い世界史の本を3人で2時間お薦めしあった中から厳選した12冊(前編)
  • この本がスゴい!2021

    「後で読む」は、あとで読まない。 「後で読む」は、あとで読まない。 「試験が終わったら」「今度の連休に」「年末年始は」と言い訳して、結局読まなかった。「定年になったら読書三昧」も嘘になるだろう。そもそも、コロナ禍で増えた一人の時間、読書に充てたか?(反語) だから「いま」読む。 たとえ一頁でも一行でも、目の前の一冊に向き合う。いま元気でも、一週間後には、読めなくなるかもしれないから。 今年は、死を意識した一年でもあった。「やりたいこと」を先延ばしにしてるうちに、感染して望みが断たれる可能性が爆上がりした。 時の経つのは早い。人生が長いほど、一年は短くなる。体感時間は加速する一方、人生の可処分時間は、短くなる。 だから「いま」読む。 積読を自嘲したりマウント取るのもヤメだ。いま読まない理由を並べ立てて開き直る不毛も捨てよう。そして、ずっと取っておいた、とっておきのを、いま読む。 そんなつも

    この本がスゴい!2021
    lenore
    lenore 2021/12/01
    大事なことなので2回書いてある
  • 認知科学から見た、多くの人が論理的に考えない理由『類似と思考』

    2つ問題がある。どちらの問題が、簡単だろうか? 問題は解いても解かなくてもいい。問われているのは、「どちらが簡単か」である。 問題1 ここに四枚のカードがある。 片面にはアルファベットが印刷されており、もう片面には数字が印刷されている。このカードは、「表が母音なら、裏は偶数」というルールに従って作られている。 いま、この四枚のカードが並べられている。これらが、前述のルールに従っているか調べるために、どのカードを裏返してみる必要があるか。 1枚目のカード  U 2枚目のカード  K 3枚目のカード  3 4枚目のカード  8 問題2 あなたは警察官だとする。 あなたは、無免許ドライバーを見つけようとしている。ある駐車場に行くと、車の近くに次の4人がいた。あなたは、どの人を調べるべきか。 1人目  車を運転しようとしている人 2人目  赤ちゃん 3人目  免許を持っている人 4人目  免許を持

    認知科学から見た、多くの人が論理的に考えない理由『類似と思考』
  • 「知らない」を知る興奮と「知ってるはず」をもっと知る快楽が得られる『驚きの世界史』

    歴史の面白さは、つながる快感にある。 知っていることと知らないことがつながるとき、強く快を感じる。歴史研究から得られた知識と、映画やニュースで感動した経験が接続されるとき、「エウレカ!」と叫びたくなる。 『驚きの世界史』は、こうした経験と知識を繋げてくれる。 「漢族」は人工的な民族集団 いちばん驚いたのが、漢族という概念だ。 書によると、中国人の91%が漢族で、残りの9%が55の少数民族に分かれる。9割以上が同一の民族というのは、大きすぎやしないか? 北京語と広東語は英語とイタリア語ぐらい違うと言われるし、文化や風習もまるで別物なのに、漢族で括られる。 では、そもそも漢族とは何か? この解説が面白い。漢族とは、特定の文化や言語、風習、外貌とは関係がなく、長い歴史的過程を経て、様々な民族集団が政治的に統合された人工的な集団だという。そして、その核となるものが、「中華」という世界観になる

    「知らない」を知る興奮と「知ってるはず」をもっと知る快楽が得られる『驚きの世界史』
  • 辛すぎることは、向き合うんじゃない、やり過ごすんだ。『胃に穴』

    わたしを支える言葉に、「開いた窓の前で立ち止まるな」という警告がある。人生は悲哀に満ちており、生きるに値しないと思うときもあるけれど、それでも生きていくためにはどうするか? そのコツが、この言葉だ。 このセリフは、ジョン・アーヴィングの2番目の傑作『ホテル・ニューハンプシャー』で知った。苦しみや悲しみが大きすぎて、生きていくのが辛いとき、真正面から向き合うのは得策ではない。まともに対処しようとするうちに、たまたま開いていた窓から出て、人生から降りてしまうから。 辛すぎることは、やり過ごす そうじゃないんだ。辛すぎることは、向き合うんじゃない、やり過ごすんだ。 この、やり過ごす方法を教えてくれるのが、フミコフミオ氏の『胃に穴』になる(当のタイトルはもっと長い)。理不尽な仕事での「怒り」の扱い方や、「正義」を強要する人との向き合う心得、あるいは非人道的な仕打ちを受ける結婚生活のしのぎ方が、経

    辛すぎることは、向き合うんじゃない、やり過ごすんだ。『胃に穴』
    lenore
    lenore 2019/11/23
  • ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』

    たとえば天下りマネージャーがやってきて、今度のプロジェクトでバグを撲滅すると言い出す。 そのため、バグを出したプログラマやベンダーはペナルティを課すと宣言する。そして、バグ管理簿を毎週チェックし始める。 すると、期待通りバグは出てこなくなる。代わりに「インシデント管理簿」が作成され、そこで不具合の解析や改修調整をするようになる。「バグ管理簿」に記載されるのは、ドキュメントの誤字脱字など無害なものになる。天下りの馬鹿マネージャーに出て行ってもらうまで。 天下りマネージャーが馬鹿なのは、なぜバグを管理するかを理解していないからだ。 なぜバグを管理するかというと、テストが想定通り進んでいて、品質を担保されているか測るためだ。沢山テストされてるならバグは出やすいし、熟知しているプログラマならバグは出にくい(反対に、テスト項目は消化しているのに、バグが出ないと、テストの品質を疑ってみる)。バグの出具

    ミスが全くない仕事を目標にすると、ミスが報告されなくなる『測りすぎ』
  • 「デオコおじさん」の記事等を面白くさせた「みんなで推敲」を生で伝えます(8/30渋谷・参加無料): わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

    「おじさんも女の子の匂いに」 想定外のヒットとなった「デオコ」。 売上げ4倍、株価爆上げ、今年のコミケは良い匂い(予想)の火付け役がこれ→ [リアル君の名は。おっさんが女の子の匂いを買ってきて身につけたら、たまらない背徳感を味わえた] だけどこの記事、わたし一人で書いたわけじゃないのだ。 もちろん、最初の原稿を書いたのはわたしだけど、それをみんなで寄ってたかって推敲して、あの記事に仕立てたのだ(ちなみに、初稿のタイトルは「673円で女の子の匂いを再現する」だった)。 この「みんな」というのは、ふろむださんの [面白文章力クラブ] なのだ。面白くて刺さる文章を書きたい人が集まって、互いに添削・推敲しあうコミュニティサイトで、 自分の文章が面白くなっていくプロセス を目の当たりにできる。 このプロセス、門外不出なのだが、許可をもらったのでナマで公開する。わたしだけでなく、他の方も発表してくれる

    「デオコおじさん」の記事等を面白くさせた「みんなで推敲」を生で伝えます(8/30渋谷・参加無料): わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる
    lenore
    lenore 2019/08/03
    とはいえバズったのは元々のネタにパンチがあるからだと思う
  • リアル君の名は。おっさんが女の子の匂いを買ってきて身につけたら、たまらない背徳感を味わえた

    「女の子の匂い」をご存じだろうか? 「臭い」ではなく「匂い」である。 よく言われる、せっけんの香りではない。デオドラントや柔軟剤、コンディショナー、乳液、ハンドクリーム、化粧水、オーラルケア、ファンデなどの香料、フレグランスでもない。それらは、女の子から漂ってくる様々な匂いを構成する要素にすぎない。 そうした、外づけの化合物ではなく、女の子自身から発する匂いだ。ココナッツミルクや白桃を想起させる、何とも言えない、「匂い」というより、「あの感じ」といえば分かるだろうか。心地よく、はっとする感じ、あるいは身体的にオンになる感覚である。 これは、わたしの変態性が生み出した妄想にすぎぬ、と考えていた。しかし、優れた先人たちの研鑽と研究の末、「女の子のいい匂い」とは、以下の物質であることが判明している。 ・高級脂肪酸と安息香酸エストラジオール ・ラクトンC10、C11 では、女の子の匂いを再現するこ

    リアル君の名は。おっさんが女の子の匂いを買ってきて身につけたら、たまらない背徳感を味わえた
    lenore
    lenore 2019/05/23
    ブログタイトル見てエッとなった。スゴ本の人が……。/ そしてAmazon売り切れだよすごいなぁ。/ 拡散するとコミケとかカード大会の悪臭が軽減されるかも知れない!/ 本体売切れでも詰替用を買うと良いよ
  • 苦しまないと死ねない国で、上手に楽に死ぬために『医者には絶対書けない幸せな死に方』

    生活や仕事の質を上げるテクニックが「ライフハック」なら、書は、安らかに死ねるためのテクニックを集めた「デスハック」である。QOL(Quality Of Life)ならぬQOD(Quality Of Death)を向上させるノウハウ集やな。 「平均寿命」-「健康寿命」≒ 10年 日人の8割は病院で死ぬが、病院では迎える死は「安らか」でない場合が多いという。なまじ延命治療技術が発達してしまったため、病院のベッドに何か月も縛り付けられたまま拷問のような状態で死に至る人が大勢いるらしい。 WHOによると、「健康寿命」の定義は、「医療や介護に依存せず、自力で生活ができる期間」になる。日人の平均寿命(2016)と並べると、こうなる。 健康寿命/平均寿命 男  71歳 / 80歳 女  74歳 / 87歳 つまり、死ぬ前に、男は10年、女は12年程度、医療や介護のお世話になる期間があることが見込ま

    苦しまないと死ねない国で、上手に楽に死ぬために『医者には絶対書けない幸せな死に方』
    lenore
    lenore 2019/03/18
    “お医者様ならどうしますか” / 昔無邪気に完全自殺マニュアルを買って無邪気に首吊りが楽なんだ、と思ってた。今は無邪気になれない。/ 体が元気な時でないと、凍死というのは冬場に水かぶるみたいな方法だよな
  • 見えない老人問題 『母の家がごみ屋敷』

    高齢化社会の問題は、「見える」ものだと思っていたが、認識が甘かったことを思い知らされる。 たとえば、福祉や介護という「税負担」の形として見える問題、高齢者が政策を左右する「シルバー民主主義」、あるいは身の危険を感じたり痛ましい事故として目にする「高齢ドライバー」など、人口構造から導き出される顕在化したものが全てと考えていた。 しかし、物理的な壁やプライバシーの権利に阻まれ、実体が見えにくい問題があることが分かった。「モノを捨てられない老人」という問題である。世の中には、片付けや整理が苦手な人がいて、極端な場合、汚部屋や汚屋敷を築くことは知っている。高齢化社会がこれを加速しているのだが、その実体は壁の向こう側で進行する。 老化による体力の衰え、認知能力の低下、家族や身近な人を失ったショックによる生活意欲の減退により、身の回りのことができなくなる。核家族から単独生活者になり、支える人もいない。

    見えない老人問題 『母の家がごみ屋敷』
    lenore
    lenore 2018/04/03
    "ほとんどの場合は見えないところで問題が進行している。そして、見えるようになったときには手遅れで、強制的か対症的か、あるいはその両方の措置になる" 落ち込むと片付ける気力が無くなるのはよく分かる
  • 『すごい物理学講義』はガチで凄かった

    スゴとは「凄い」の略だ。読前読後で世界が改変されてしまうだ。 もっと言うと、世界が変化するのではなく、世界を視る「わたし」が更新される。『すごい物理学講義』は、まさにそういう一冊。わたしが知っていた世界について、その理解を深めるとともに、知識や概念として知っていた枠組みを、一変させてしまった。 書の前半は、「世界のありよう」について歴史を振り返りつつ、アインシュタインの一般相対性理論と量子力学の統合について、徐々に焦点を当てていく。ここでの面白い指摘は、「目に見えている世界」ありのままに見ることを阻むものは、われわれ側の予断であること。著者は、世界の理(ことわり)を善悪の観点から理解しようとしたプラトンやアリストテレスを挙げながら、目的論的な見方を批判する。 そして、ニュートン的世界観がどのように乗り越えられ、ファラデー、マクスウェルを経て、アインシュタインと量子力学で、時間と空間

    『すごい物理学講義』はガチで凄かった
  • 東大の科学がスゴい『科学の技法』

    東大の理系は、一年生から「科学の技法」を叩き込まれる。 『知的複眼思考法』を読んだとき、批判的に読み・考えるトレーニングを徹底させる東大の文系が羨ましいと思った。『科学の技法』を読んだいま、科学の技法をゼミナール形式で学べる東大の理系が羨ましい。 東大で始まった新しい試み「初年次ゼミナール理科」が凄い。 理系の一年生は全員必修で、1クラス20名の少人数を、教師+TA(ティーチングアシスタント)できめ細やかに指導する。学術的な体験(アカデミック体験)を通じて、サイエンティフィック・スキル(科学の技法)を修得することを目的としている。 この科学の技法が羨ましい。前半が「基礎編」で、あらゆる研究をする上で基礎的となるだけでなく、仕事にも必須なスキルが紹介されている。後半が「実践編・発展編」で、研究チームを意識できるようなゼミを「ラボ」として開講し、そこで基礎的な演習を行う(垂涎だらけなり)。 ◆

    東大の科学がスゴい『科学の技法』
  • なぜ『この世界の片隅に』を観てほしいのか

    来た。観た。良かった。 封切り直後の映画館は、半分くらい埋まっており、それが多いのか少ないのか分からなかった。可笑しいシーンでは笑い声が場内を満たし、一杯になった胸から心が溢れだす場面では嗚咽が交じる。明るくなると拍手が沸きあがり、観た人みんな良かったと思っているんだなぁと分かる。 結論から言うと、すばらしい映画なので、たくさんの人に観てほしい。できれば、大切な人と一緒に観てほしい。 小学校高学年の娘を連れて行った。『君の名は。』『聲の形』と、今年はアニメ映画の当たり年で、どれも劇場で観てよかったねと話してたので、否でも応でも期待は高まっていた。『君の名は。』とは異なり、中高年ばかりの客層に少し驚く。「アニメは子供のもの」なんて時代もあったね(ジブリのおかげ)。 あの原作のあの絵が動く、というだけで嬉しいと思ったのは最初だけで、あとは夢中で観てて、気づいたら終わってた。冗長な描写は1秒たり

    なぜ『この世界の片隅に』を観てほしいのか
    lenore
    lenore 2016/11/20
  • 『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』はスゴ本

    「役に立たない人を安楽死させよう」という世の中になるなら、それはどんなプロセスを経るか? これが、嫌と言うほど書いてある。ヒトラーの秘密命令書から始まったT4作戦[Wikipedia]を中心に、医師が「生きるに値しない」と選別・抹殺していった歴史が緻密に書かれている。 対象となった人は多岐に渡る。うつ病、知的障害、小人症、てんかんに始まり、性的錯誤、アル中、反社会的行動も含まれていた。こうした人びとが何万人も、ガス室に送られ、効率的に殺されていった。ユダヤ人の迫害にばかり目が行っていて、書を読むまで、ほとんど知らなかった自分を恥じる。書は、不治の精神病者はガス室へ『夜と霧の隅で』で教えていただいた(hachiro86さん、ありがとうございます)。 問題は、ナチスに限らないところ。優生学をナチスに押し付け断罪することで、「消滅した」という図式にならない。社会システム化された「安楽死」(と

    『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』はスゴ本
    lenore
    lenore 2016/10/20
  • 60分で常識が変わる『料理と科学のおいしい出会い』

    切って、火を通して、味つけして、おしまい。あとは素材と種類のバリエーションで、料理とはそんなものだと思ってた。 しかし、気で「おいしい」を求めると、土や水からの話になるし、分子や組成レベルまで分け入った、味わいの認知科学・生理学の研究になる。そこはもはや、経験や伝統を超えた科学の領域で、台所はラボラトリーになり、調理技術はは化学や物理に還元される。 書では、「分子調理」をメインに、科学の視点から「おいしさ」の質に迫る。「分子調理」とは、物理・化学・生物、そして工学の知識を調理プロセスに取り込み、新しい料理を創造する試みだ。「新しいご馳走の発見は、人類の幸福にとって新しい天体の発見以上のものだ」と言った美家がいたが、これは新たな星雲の発見以上になるかもしれぬ。 たとえば、材の「相」を変えるという発想が紹介される。氷・水・水蒸気に代表される、固体・液体・気体の相のことだ。通常なら、加

    60分で常識が変わる『料理と科学のおいしい出会い』
    lenore
    lenore 2015/11/08
  • 身体のリバースエンジニアリング『人体 600万年史』

    完成品を分解したり観察することによって、動作原理や設計・仕様を調査することをリバースエンジニアリングという。これを「人体」に適用したのが書になる。 しかし人体は「完成品」ではないし、設計図からデザインされたものですらない。その時々の環境に応じて「生きる」「殖える」ことを目的とし、変化を重ねてきた。人の身体には、パリンプセストの羊皮紙のように何度も消しては書かれてきた跡が見えるという。「私たちの身体には物語がある」と断言する著者は、そうした人体と環境の変化を、ときには精緻に、ときにはドラマティックに明らかにしてくれる。 非常に面白いのは、「人の身体はなぜこのようになっているのか」というアプローチから迫ってゆくうち、「人は何のために生きるのか?」への回答がなされていること。人類の祖先との身体構造の違い―――長い脚、高い鼻、大きな頭といったパーツから始まって、なぜべ物を喉に詰まらせるのか(気

    身体のリバースエンジニアリング『人体 600万年史』
    lenore
    lenore 2015/11/01
    「人は、食物の誤嚥による窒息が起きる、唯一の種だという」たまに死ぬ思いをする
  • 苦しまないと、死ねない国『欧米に寝たきり老人はいない』

    せめて、死ぬときぐらい安らかに逝きたい。 だが、現代の日では難しいらしい。老いて病を得て寝たきりになっても、そこから死にきるためには、じゅうぶんな時間と金と苦しみを必要とする。寝たきりで、オムツして、管から栄養補給する。痰の吸引は苦しいが、抵抗すると縛られる。何も分からず、しゃべれず、苦しまないと死ぬことすらままならない。 タイトルの「欧米に寝たきり老人はいない」理由は、簡単だが単純ではない。というのも、「寝たきりになる前に(延命治療を拒否して)死ぬから」が答えであることは分かっていても、なぜ「延命治療を拒否する」ことが一般化しているか明らかでないから。書によると、数十年前までは日と同様に、終末期の高齢者に対し、濃厚医療が普通だったという。欧米では、これが倫理的でないという考えが広まり、終末期は「べるだけ・飲めるだけ」が社会常識になった。金の切れ目が命の切れ目。高齢化社会に伴う医療

    苦しまないと、死ねない国『欧米に寝たきり老人はいない』
    lenore
    lenore 2015/09/22
    今の政権がコレに付いて何か提言すると、多分「老人見殺し法」とか何とかマスコミや野党がこき下ろして冷静な議論ができないだろうなあ。今後永遠に議論できないかも知れない。