結核、梅毒、コレラ、チフスなどの感染症は、死につながる恐ろしい病気だ。感染という名の通り、1人が罹れば周りの人も罹る可能性がある。これらの感染症は、長い間有効な薬や治療法がなく、なぜ病気になるのか、なぜうつるのか、原因もわかっていなかった。ようやく19世紀に原因となる病原菌が発見されたが、治療法は自己免疫力に頼るのみだった。 こうした中、ある時を境に人間が病原菌に対して圧倒的優位に立つ。きっかけとなったのは、抗生物質の誕生だ。 『サルバルサン戦記 秦佐八郎 世界初の抗生物質を作った男』(岩田健太郎/光文社)は、明治6年生まれの日本人、秦佐八郎が、世界初の抗生物質「サルバルサン」を開発するという史実を元にした小説である。 秦佐八郎による、世界初の抗生物質開発秘話 明治42年1月、37歳の秦はドイツ・フランクフルトのある研究所を訪れる。所長は、免疫の研究で、ノーベル生理医学賞を穫ったばかりのパ