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ブックマーク / book.asahi.com (31)

  • アマルティア・セン「アイデンティティと暴力」書評 「単一帰属」の幻想を打ち砕く|好書好日

    アイデンティティと暴力―運命は幻想である [著]アマルティア・セン グローバル経済の格差と貧困を温床とするテロと暴力の連鎖。この、それこそグローバルなテーマにどう向き合ったらいいのか。 書は、ノーベル経済学賞受賞のセンによる渾身(こんしん)の処方箋(しょほうせん)である。そのキーワードは、アイデンティティーだが、書が心打つのは、センが自らのアイデンティティーをめぐる「生体解剖」的な分析を通じて、アイデンティティーの複数性と「選択」の必要を説いていることにある。 この揺るぎない信念から、センは、暴力への誘因となる「単一帰属」のアイデンティティーの幻想を打ち砕こうとする。その一つが、狭隘(きょうあい)な利己的功利主義に基づく「合理的愚か者」の幻想だ。これは、一切の個別的なアイデンティティーを消し去り、人間をただ欲望機械のような利己心だけで動く「普遍的な」アイデンティティーに還元しようとする

    アマルティア・セン「アイデンティティと暴力」書評 「単一帰属」の幻想を打ち砕く|好書好日
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    lotus3000 2011/10/04
  • 「厳復―富国強兵に挑んだ清末思想家」書評 中国で生きなかった近代思想|好書好日

    厳復(げんふく)―富国強兵に挑んだ清末思想家 [著]永田圭介 厳復――その偉大さを日人にわかりやすく伝えるためか、書の帯に「中国の福沢諭吉」の文字が躍る。トマス・ハクスリーの『進化と倫理』をはじめ、ハーバート・スペンサーの『社会学研究』やアダム・スミスの『諸国民の富』、モンテスキューの『法の精神』などを翻訳し、西洋近代思想を中国に紹介して、国の富強への道を模索し続けた中国近代啓蒙(けいもう)思想家である。 しかし、その名の浸透は、日の一万円札に印刷された福沢諭吉に遠く及ばず、外国人はおろか、現代中国においても教養階層にとどまっている。この現象こそが、中国はいまだに政治の近代化を実現できていない所以(ゆえん)を語っているのではないかと、そんな気がしてならない。 アヘン戦争後、内憂(太平天国農民蜂起)外患(日ロ戦争や日清戦争)が続き、気息奄々(きそくえんえん)としていた清王朝。そんな中を

    「厳復―富国強兵に挑んだ清末思想家」書評 中国で生きなかった近代思想|好書好日
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    lotus3000 2011/09/13
  • 「ナポレオンのエジプト」書評 幻滅の砂漠地帯で置き去りに|好書好日

    ナポレオンのエジプト 東方遠征に同行した科学者たちが遺したもの 著者:ニナ・バーリー 出版社:白揚社 ジャンル:歴史・地理・民俗 ナポレオンのエジプト 東方遠征に同行した科学者たちが遺(のこ)したもの [著]ニナ・バーリー ナポレオン東方遠征の成果をまとめた『エジプト誌』は出版史上の偉業だが、一方同じ時期に、この遠征隊を海上封鎖したイギリスでも、ナポレオン探検団のバカげた行動を揶揄(やゆ)するジェイムズ・ギルレイの辛辣(しんらつ)な漫画が多数出版された。なぜならネルソン率いるイギリス艦隊は、敵側から出る公文書や内密な私信を傍受し、それを逆宣伝のネタに活用したからだった。 書は、戦争と学術の両面を持つこの遠征に参加した科学者たちの体験を、ギルレイの風刺漫画以上に人間臭く描きだす。目的も行き先も明かされず夢だけ吹き込まれた若い学者が、古代最高の文化都市アレクサンドリアに到着してみれば、有名な

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    lotus3000 2011/09/13
  • 【レビュー・書評】大川周明―イスラームと天皇のはざまで [著]臼杵陽 - 書評 - BOOK:asahi.com(朝日新聞社)

    大川周明―イスラームと天皇のはざまで [著]臼杵陽[掲載]2010年10月10日[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)■政教一致に大乗アジアの未来仮託 かつて竹内好は、講演の中で次のように述べたことがある。「イスラムによる世界征服というビジョンが大川にはあるような気がします」 近代日を代表するアジア主義者として活躍した大川周明。彼はイスラームが政治と宗教の一体化を実現し、文化圏を超えて世界に拡張する姿に「世界統一」の夢と方法を見たのではないか――。それが竹内の指摘だ。 書は大川周明のイスラーム観の変遷を綿密に辿(たど)りながら、彼の思想構造を明らかにする。 若き日の大川は、イスラームの中でも内面的・精神的・霊的な側面を重視するスーフィズムに強い関心を示し、「神秘的マホメット教」と呼んだ。しかし、その姿勢は、現実政治へのコミットという「転回」によって変化してい

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    lotus3000 2010/10/13
    政治と宗教の止揚をめざし、一つのモデルとしてのイスラームを見た大川周明。
  • 【レビュー・書評】カチンの森―ポーランド指導階級の抹殺 [著]ヴィクトル・ザスラフスキー - 書評 - BOOK:asahi.com(朝日新聞社)

    カチンの森―ポーランド指導階級の抹殺 [著]ヴィクトル・ザスラフスキー[掲載]2010年9月12日[評者]逢坂剛(作家)■ソ連の隠蔽工作、破綻の経緯分析 第2次大戦のさなか、1943年4月にドイツのラジオ放送は、占領地のスモレンスクに近いカチンの森で、2万5千人にものぼるポーランド将校の、埋葬射殺死体が発見された、と報じた。ドイツはそれを、自軍の侵入以前に同地区を占領していた、ソ連軍の所業だと指弾する。一方、ソ連はドイツこそ事件の張人で、ラジオ放送は連合国の結束を乱そうとする、ゲッベルス一流のプロパガンダにすぎない、と反論した。 その後、国際調査団による綿密な調査の結果、遺体は将校を含むポーランドの指導者層で、40年の4月から5月にかけて埋められたもの、と判明した。さらに、処刑方法や遺体の所持品等から、当時その地域を占領していたソ連の犯行、と断定される。しかし、スターリンはその事実を頭か

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    lotus3000 2010/10/04
  • 【レビュー・書評】抵抗と協力のはざま―近代ビルマ史のなかのイギリスと日本 [著]根本敬 - 書評 - BOOK:asahi.com(朝日新聞社)

    抵抗と協力のはざま―近代ビルマ史のなかのイギリスと日 [著]根敬[掲載]2010年9月12日[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)■したたかに政治的自立探る 「ビルマ(現ミャンマー)近代史の学術書」と聞くと、読書家でもなかなか指が動かないだろう。しかし書をぜひ、手にとってほしい。ビルマ独立運動に従事した若き政治家・活動家が、植民地権力への「抵抗」と「協力」のはざまで苦闘した軌跡が見事に描かれているからだ。 書が対象とするのは、イギリス・日の統治から独立を勝ち取る時期のビルマ。初代首相バモオ、国民的英雄アウンサン、その暗殺者ウー・ソウといった政治エリートやビルマ共産党メンバー、行政エリートの歩みを丹念に追い、多様なアクターの主体性を浮かび上がらせる。彼らが懸命に植民地権力と渡り合い、時に妥協や協力を繰り返しながら、したたかなナショナリストとして独立を勝

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    lotus3000 2010/09/16
  • asahi.com(朝日新聞社):画家・安野光雅さん〈1〉 日本国が失った二人 - on reading 本を開けば - BOOK

    画家・安野光雅さん〈1〉 日国が失った二人[掲載]2010年9月5日「黙阿弥オペラ」上演中の東京・新宿の紀伊国屋サザンシアターで(現在は大阪公演中)=郭允撮影 東北線一ノ関駅あたりで列車が急停車し、突如「吉里吉里人(ちりちりづん)」が乗り込んできて乗客を外国人として扱い、旅券を見せろと言う。吉里吉里国は独立したと宣言するのだ。 「俺達(おらだつ)が独立(どぐりじ)を踏み切(ぎ)ったなぁ、日国(ぬほんのくに)さ愛想(あえそ)もこそも尽ぎ果(はん)でだがらだっちゃ」 井上ひさし『吉里吉里人』が出たのは30年近く前だが、そのの装丁をするために、わたしは出版社から雑誌連載の分厚い束を持たされて外国をめぐり、先々で読んだ。 独立の理由を共通語で要約すると、「減反しろ、広域営農団地を作れ、村有林を伐(き)れ、隣の町と合併しろ、上流の工場排水のために川水が少し濁っても我慢しろ」などと「国益のため

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    lotus3000 2010/09/09
  • 【レビュー・書評】日本政治思想史―十七〜十九世紀 [著]渡辺浩 - 書評 - BOOK:asahi.com(朝日新聞社)

    政治思想史―十七〜十九世紀 [著]渡辺浩[掲載]2010年4月25日[評者]奥泉光(作家・近畿大学教授)■江戸〜明治維新の思想 鮮やかに 書名からは専門的な学術書のように思えるだろうが、全然違う。著者も述べるように、専門知識を前提にしない一般向きに書かれた概説書である。というと今度は、無味乾燥な教科書が想像されるかもしれないが、それも違う。十七世紀から十九世紀、ほぼ江戸時代から文明開化期までの、日政治思想を活(い)き活(い)きと描き出した書は、概説書のイメージなどは遥(はる)かに飛び越えた、歴史エッセーと呼ばれるべきだ。 江戸期の政治思想だけでも論じられるべき対象は膨大である。それをどう論じるか。測量に喩(たと)えるならば、広大で複雑な地形を測量するには、いくつか測地点をマークし、それらを繋(つな)いで全体像を描いていくしかないわけで、だから測地点の選び方にこそ観測者の腕はあ

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    lotus3000 2010/05/03
  • asahi.com(朝日新聞社):脳ブームに「待った」 学会「根拠示す配慮を」 - ひと・流行・話題 - BOOK

    脳ブームに「待った」 学会「根拠示す配慮を」2010年4月20日脳科学をめぐる 数年来の「脳ブーム」に対し、「脳科学はそう簡単じゃない」と訴える研究者が相次いでいる。「すぐ役立つ」ばかりを期待する世間に、「応用を安易に語りたがらない科学」が理解を求めている。 大阪大学の藤田一郎教授は、視覚と脳の関係を探る基礎研究者。昨年出した『脳ブームの迷信』(飛鳥新社)で、脳にまつわる様々な風説の横行を嘆き、一例として「脳トレ」を検証した。 2005年の発売から、09年9月末までに世界で正続2作が3218万売れたこのゲームソフトは、正式名称が「東北大学未来科学技術共同研究センター川島隆太教授監修 脳を鍛える大人のDSトレーニング」。「音読や簡単な計算で脳の血流が増す」という川島教授の理論に基づいて任天堂が開発した。 ■期待抱かせている 藤田教授は、脳トレが専門用語を交えた説明と「脳が活性化した」など

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    lotus3000 2010/04/21
    この記事を読むと、脳ブームって認知症の恐怖と裏合わせなんだなという気がしてならない。それが限りなく呪的な行為へと向かわせるんだろう。
  • asahi.com(朝日新聞社):庶民を描く歴史人口学 文化勲章・速水融さんに聞く - ひと・流行・話題 - BOOK

    庶民を描く歴史人口学 文化勲章・速水融さんに聞く2009年12月17日鈴木好之撮影 歴史人口学を日に築いた功績で今年度の文化勲章を受けた速水融・慶応大名誉教授が、長年の研究をまとめ『歴史人口学研究』(藤原書店)として出版した。歴史人口学とは、どのような研究手法なのか。その分析を通して見えてきた日の社会、地域、家族の特徴とは……。速水さんに聞いた。 歴史人口学はフランスで始まった。その生まれたばかりの成果に速水さんは留学先で触れた。1963年、ベルギーでのことだ。 教会に残る洗礼や結婚、埋葬などの記録を手がかりにして信徒の生涯や家族の姿を復元していた。「革命的な手法に見えた」という。 庶民の歴史の研究は日にもあったが、一揆や抵抗の歴史が中心だった。歴史人口学は、庶民の日常の暮らしや地域の特色、人口の推移などを描き出そうとしていた。 帰国すると史料を求め全国をめぐった。探したのは江戸時代

  • asahi.com(朝日新聞社):薩摩侵略から400年 「奄美」再考各地で - ひと・流行・話題 - BOOK

    薩摩侵略から400年 「奄美」再考各地で2009年4月25日   今年は江戸時代に薩摩藩の軍勢が奄美に侵攻してから400年にあたる。これを機に歴史を見直し、奄美のアイデンティティーを探ろうというシンポジウムや出版が相次いでいる。 薩摩は1609(慶長14)年に奄美諸島に攻め込み、支配下に置いた。軍勢が上陸したと伝えられる奄美市笠利町では12日、住民や郷土史研究者らが慰霊祭を開き、「薩摩の行為は『侵攻』ではなく『侵略』『植民地支配』だった」「薩摩と琉球の間に埋没している奄美をどう発信するか」などが議論された。 「日の中での存在感が薄い」というのが奄美の悩みだ。朝山毅・旧笠利町長にはこんな経験がある。 「出身を聞かれて九州と言うと理解される。さらに聞かれて薩摩と答えても納得される。だが『奄美です』と言うと『奄美? どこだ?』と言われる」。沖縄出身の詩人山之口貘(ばく)の「会話」を思い起こさせ