▼菊五郎劇団のムードメーカー役の立役だ。『め組の喧嘩』の鳶さながらの江戸っ子で、さっぱりと明るく、先輩へ気を遣い、後輩の成長に目を配る。劇団の芝居のあれこれを伝える立場になったのだ。同じ三男坊の立場にあった二代目尾上松緑に可愛がられた。父の十七代目市村羽左衛門の教えもある。その賜物が、べりべりと台詞を喋る赤っ面の『馬盥(ばだらい)』の森蘭丸や、『石切梶原』の血気盛んな俣野、世話物の『魚屋宗五郎』の三吉などで、イキのよさを発揮した。時代が令和となってからは尾上菊五郎の『野晒悟助』で悟助が気を許す子分の忠蔵を勤める一方、『権三と助十』で同心石子判作を演じた。主役を相手にする役も、大詰にチョイと顔を出す役もあって、立ち位置は様々ながら身についた素養は万事に裏切らず、人物の位取りをちゃんと出している。万物流転の世とはいえ、そろそろ老練の味というものだ。趣味は山登り。山は思惟を求める孤独な空間だが、