さらに奥 ~学術文庫版『廣松渉─近代の超克』に寄せて~ 文/小林敏明(ライプツィヒ大学教授) たんなる地方の「さらに奥」から来た者たち 最近自分のやってきた仕事を振り返って、我ながら不思議に思っていることがある。 このほど刊行した「再発見 日本の哲学」シリーズの講談社学術文庫版『廣松渉―近代の超克』のなかでも少し触れたことだが、自分が研究の対象としたり、熱心に読んできた作家たち、具体的には西田幾多郎、廣松渉、大江健三郎、中上健次といった人たちにはある際立った地理的共通性がある。 彼らが地方出身者であることはよく知られているが、この地方性、さらに細かな特徴があることに気づいた。 西田は地方の中心都市金沢からさらに奥に入った宇ノ気、廣松は柳川のさらに奥の蒲池村、大江は松山のさらに奥の大瀬村、中上はそれ自体が交通上孤島に置かれた新宮である。ちなみに、私自身の出身は典型的な地方都市中津川のさらに奥